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海外で活躍する卒業生

NHS(英国医療サービス)で実践する看護

1期生 吉村 久代さん

2005年卒業(1期生)。同年4月、熊本赤十字病院に入職。在職中は、日赤集中語学研修、国際救援・開発協力要員研修を受講。熊本赤十字病院退職後、2011年からロンドン医療センターでパートタイム勤務。日本クラブ診療所でのパートタイム勤務を経て、現在はNHSロンドン大学病院(University College London Hospital)に勤務。
Peter Walkerベビーマッサージインストラクターコース受講
国際ラクテーションコンサルタント オンラインコース修了

 私は、NHS(英国医療サービス)の正職員としてロンドン大学病院の産後病棟(Maternity Care Unit)に勤務しています。
 まだイギリスの登録看護師/助産師ではありませんが、日本での助産師経験を活かして、登録助産師を補佐する業務を行っています。産後病棟(Maternity Care Unit)では、感染症にかかった新生児や36週前後の未熟児などの経過観察をしたり、母乳育児サポートを行ったりするのが主な仕事です。年間6,000人の新生児が生まれる病院のため、日々患者さんの入退院が多く、看護にもスピードが求められます。日本で助産師として勤務していた経験が大いに役に立っています。

 日本と違ってイギリスでは移民が多く、英語以外の言語を話す患者さんには同じ言語を話せる同僚の助けを借りることもあります。様々な人種、宗教、文化を持つ人々が多いので、患者さんや同僚も多種多様です。宗教、文化の違いで、患者さんの子どもの育て方に対する考え方も違います。また、宗教上これはできる、これはできないといった決まりも多く、一人一人の要望に応えることは大変なこともありますが、それ以上に、その背景をもっと知りたいと思い、仕事の後、その国家、民族の背景などを本やインターネットで調べることがよくあります。高校時代から興味があった外国史や、大学時代の文化人類学や国際看護の講義などが、海外での生活や仕事の基盤になっていると感じています。さらに、民族の違いや宗教、文化をより深く理解して、看護ケアを行う時に配慮したり、コミュニケーションの向上につながるように心がけています。

 日本の大学では先生方が身近にサポートしてくださり、卒業後に働いた病院でも基礎からしっかり教えていただき、看護人材を育てるための手厚いサポートが特徴だと思います。そのおかげで、海外でも自分の知識、技術がしっかり通用しているのを実感し、これまで受けた指導に大変感謝しています。日本で身につけた看護技術や経験と日本人の穏やかな国民性によるものでしょうか、職場では上司も同僚も自分の存在を大変ありがたいと思ってくれています。
 現場では、新人ベテランを問わずコミュニケーション能力の高さを感じます。患者さんだけでなく職員も含めた現場の人々に対して、小さな気遣いができる人、周りの人に喜びや安心を与えるコミュニケーション力を兼ね備えた人は素敵だなと思っています。さらに、自分よりとても若くてしっかした助産師であれば、負けてられないなと思います。卒業後、日本で看護師となってから月日が経ち新人ではないですが、いまだに目標とする上司や先輩、自分がまだ身につけていない知識や技術を持っている人と一緒に仕事をすることに喜びを感じています。

 ナイチンゲール、看護発祥の地として有名な英国ですが、看護職のキャリアを発展させていく機会は英国民だけでなく他国民にも、多く提供されています。例えば、フルタイムで勤務し給料をもらいながら、資格や学位をとる制度があります。受け入れ人数もかなり多く、ビザなどの要件を満たせば誰でも申し込むことができます。このような理想的な環境と機会を充分に活用しながら、数年以内にNursing & Midwifery Council(イギリスの看護師協会)の登録看護師を目指しています。




米国疾病管理予防センター(CDC)で人々の健康問題に取り組む

2期生 権藤(旧姓:時枝) 夏子さん

2006年卒業(2期生)。同年4月、福岡赤十字病院に入職。2013年本学大学院 保健学 修士課程修了後、本学の成育看護領域助手として在職中は、日本赤十字社の国際要員としてフィリピン中部台風復興支援事業に参加。2019年Rollins School of Public Health,Emory University公衆衛生学 修士課程修了後、2020~2022年米国疾病管理予防センター(CDC)に 勤務。

 私は、米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)に2年間勤務しました。
 看護師は、病気になり闘病生活を送っている個々人の治療や回復を支援します。その他にも、地域社会の中で集団としての人々が健康な生活を送り続けること、もっと健康になること、また病気を予防することに取り組むことも看護師の重要な役割です。
 CDCは、米国内をはじめ世界中の人々が健康な生活を送ることができるように、病気の原因や動向を調査したり、医療従事者が人々の健康を管理するために使うマニュアルを作成したりする連邦政府機関です。世界的なパンデミック(大流行)となった新型コロナウイルス感染症対策で、世界のリーダー的役割を担っていたことでも知られています。私は、このCDCの循環器疾患*¹対策を行うチームで働いていました。
 私は、兼ねてから地域社会の中で人々の健康をまもることに関わる仕事をしたいという希望があり、2019年に米国のエモリー大学で公衆衛生学の修士課程を修了しました。大学院在学中にラオスの世界保健機関(World Health Organization: WHO)事務所で3ヶ月間のインターン(現場実習)を行い、世界には心疾患や腎疾患といった長期的な闘病を強いられる病気に苦しむ人々がたくさんいること、またその対策が十分に行われていないことを目の当たりにしました。慢性疾患といわれるこの様な病気の多くは、発症を予防できるといわれています。そこで、そのノウハウを高度な専門家のもとで学び、実践したいと考え、CDCで働くことを決めました。

 アメリカでは、慢性疾患の一つである高血圧は成人の約2人に1人が発症していますが、早期に発見し治療を行うことが、新型コロナウイルス感染症の重症化と心筋梗塞や脳梗塞の発症を予防することにつながります。そこで私は、所属するチームのメンバー、米国の看護界のリーダーたちと協力して、高血圧対策のプロジェクトに従事しました。アメリカではナースプラクティショナーと呼ばれる高度実践看護師が、医師と同様に高血圧の診断と薬の処方を行うことができます。よって、本プロジェクトは高血圧の早期発見、診断、治療、また血圧の管理に不可欠な食習慣や運動に関する患者教育、治療経過のフォローアップまでの総合的な看護介入を強化することを目標としていました。また、日本では生じないような人種の違いによる社会構造的な格差により、医療保険に加入することが難しい、病院に通うための移動手段が確保できない、栄養のある健康的な食材や食事にアクセスできない、といった課題を抱える人々への支援についても話し合いました。2022年2月には、これまでの議論をまとめて、アメリカの看護師が行う 高血圧対策の具体的な方針とアクションプランを公表しました*²。これは、アメリカのあらゆる場所で働く全ての看護師が、取り組むべき具体的なケアの内容を提示しています。看護師の包括的なケアが、格差を超えて必要な人々に届くように、本アクションプランが広く活用されていくことを期待しています。

 日本では当たり前に享受している健康な生活を送る権利や、平等を尊ぶ社会が、一歩外に出るとそうでない現実があります。そのような場に身を置くことで、人々の健康を守るためには、看護の技術に留まらない広い視野と見識、そして職種を越えて各分野の専門家と協調する能力が必要なことを、アメリカで実感しました。日本赤十字九州国際看護大学が掲げる「ひとりを看る目、その目を世界へ」というスローガンは、ひとりのケアができるようになったその目を、世界に向けることで得られる新たな気づきが、巡り巡って“ひとり”へのより良いケアに繋がっていくことなのだと、卒後約15年たった今、振り返っています。これからも、看護師の専門性を探究しながら、人々の健康問題の改善に取り組んでいきます。

*¹血液を全身に循環させる臓器である心臓や血管などが正常に働かなくなる疾患(病気)
*²Hannan JA, Commodore-Mensah Y, Tokieda N, et al. Improving hypertension control and cardiovascular health: An urgent call to action for nursing. Worldviews Evid Based Nurs. 2022;19(1):6-15. doi:10.1111/wvn.12560



ラオスの保健医療サービスの質改善に向けて

2期生 橋爪 亜希さん

2006年卒業(2期生)。同年4月、助産師として武蔵野赤十字病院に入職。2012年にオレゴン州立大学公衆衛生学 修士課程修了後、本学成育看護領域助手として在職中はインドネシアやミャンマーで研究を行う。2015年から国際協力機構(JICA)にジュニア専門員として勤務。ミャンマー、バングラデシュ、タジキスタン等のプロジェクトを担当。2016年にJICA看護専門家としてラオス人民民主共和国に赴任。
2019年からアライアンスインターナショナルメディカルセンター(ラオスの民間病院)に現地採用看護師として勤務していたが、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンのため政府の指示で民間病院が一時閉院。勤務がままならない状況になり、日本の医療従事者不足に役立つことを考え、日本に帰国。その後、JICA専門家としてラオスで活躍中。

 私は、2016年から約4年間、国際協力機構(JICA)の看護専門家としてラオス人民民主共和国に赴任し、保健医療サービスの質改善プロジェクトを担当しました。私の最初の仕事は、ラオス人にとっての良い病院の「質」とは何かということを、活動相手(カウンターパート)である対象病院の看護部、看護大学、ラオス保健省の看護師と一緒に考えることから始まりました。「質」というのは目に見えづらく、改善しても数字で示すのが難しく分かりづらいのですが、現地スタッフのラオス人が達成可能な基準を作り、その基準をどのくらい達成しているか定期的に評価しました。そして、その成果を発表する場を作って、改善していることを実感してもらうことを実践しました。私が最初に就職した武蔵野赤十字病院はこのような方法で行う質改善にかなり力を入れていたので、その時の経験は、とても役に立ちました。病院を訪れるたびに、病院のスタッフが自分たちで考えた新しい改善策に取り組んでいる姿を見るのはうれしかったです。

 JICAの専門家の任期を終え、ラオスの首都ビエンチャンにあるタイ資本の民間病院に看護師として就職しました。ラオスという国がとても気に入ったので、この国に住みたいと思ったことに加え、現地に住む人々、特に私と同じ立場である外国人にとって、もう少し直接的に役に立つことがしたいと考えるようになりました。ラオスの病院の質改善を実施してきましたが、清潔な環境と言い難く、まだまだ日本人を含む外国人が満足できる医療提供体制にはなっていないため、受診を躊躇してしまいます。その状況を少しでも改善したいと思い、安全で清潔な採血や注射の実施、薬の確認の徹底、プライバシーの保護や感染対策など、外国人が安心できる保健医療サービスを提供するように心がけました。ラオス在住の外国人の方々や高い保健医療サービスを求めるラオス人から頼りにされるのはとてもやりがいがありました。
 ラオスで看護師として勤務するにあたり、日本で取得した看護師免許(英訳版)を登録しました。ラオスには、日本のように医療従事者が国家試験を受けて免許登録を行う制度がありませんが、JICAが看護師・助産師国家試験の創設を支援し、2021年にラオスで初めての国家試験が実施されて、今後免許登録制度が確立されることが期待されています。

 私生活では、様々な文化や考え方に触れ、多くのことを実際に経験できるように行動してきました。その第一歩は言葉でした。ラオス語を少し話せるようになるとひとりでいろいろなところへ行って現地の人とコミュニケーションをとることができ、ラオスでの生活がより楽しくなりました。その国を好きになると、その国で自分や自分の大切な人がよりよく生活できるためには、自分に何ができるかを考えるようになりました。まずは、国内外問わず、いろんなことが経験できるよう語学力を身に付け、健康な体を維持するよう努力することが大切だと思います。