【1年生の岩波新書感想文】 『西遊記 : トリック・ワールド探訪』


著者情報等中野美代子著、岩波書店、2000.
寄稿者名1年生 大石 唯花(2012年6月)
本学所蔵なし
西遊記をいろんな角度から解き明かしているこの本。孫悟空・猪八戒・沙悟浄の三弟子と三蔵法師の一行が災難に出会い妖怪を退治しながら、天竺から経文を持ち帰ってくるという物語だが、裏ではすごい仕掛けが多様に用いられている。一番興味を持ったところは、彼らには記号論的な意味が隠されていることだ。弟子を南火・北水・東木・西金と定位し、三蔵である中土を衛る。何気なく知っていた物語がこんなにも深い内容だったとは。なぜこのように表現したのか。仕掛けが分かることで作品に厚みをだし、さらに深く理解したいと、興味をそそられる。日常でも当てはまると思う。見落としていることはたくさんあると思うし、一方的な見方にとらわれてしまいがちだ。例えば、スーパーで売っている惣菜を食べる。そのことは当たり前すぎてそれ以上考えない。しかし、その食材を作った人たちの努力、試行錯誤しながら味付けをしている人たちの気持ち、これらのことを考えることができたら、日常のあらゆるものに感謝できると思う。一人で生きていけるひとなどいない、支えあっている、様々な見方で広がっていく。
 他にも、十二支での位置が深く関係している。しかし、沙悟浄だけは十二支になく申と亥の仲裁役とされている。なぜ他の動物にしなかったのか。いくら仲裁役としても、東西南北で弟子を4人登場させるとバランスがとれるのではないだろうか、と考えた。しかし、孫悟空が一番強いことになっている。仲裁役が強くてもいいはずだ。またそもそもは、三蔵法師が弟子を連れていく物語だが、普通の考えをするならば、三蔵法師が一番強くないといけないはずだ。だが、弟子にまもられている。その疑問はこの本を読んでわかった。三蔵法師は力的な強さではなく、みんなをまとめることができる精神的強さのことなのだと理解した。
 西遊記をこんなにも解き明かすことはすごいことだ。看護師という仕事も患者の気持ちや治療の方法をいろんな角度から考えていかなければならないと思う。正面からみすぎて、あるいは根拠ばかりを求めすぎて、本質を見失うのもいけない。医療においては数値やデータの結果に基づくことが重要視されがちだ。そこでは、患者の気持ちは無視されていいのか。どういう経緯で病気になったのかなど、患者のことを知ることも必要だと思う。同じ病気をしていても、一人ひとり違うのでまずはその人を見る事が大切だ。いろんな方向から見て、知る。そうすることでよりいっそう患者との距離を縮められると考えた。


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    喜多学長が、新入生に課題として出された「岩波新書の感想文」を
    シリーズで掲載しています。
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