『食卓の向こう側』


著者情報等第1部~第13部、西日本新聞社「食くらし」取材班著、西日本新聞社、2003~2010年.
寄稿者名1年生 勝山 智美(2012年7月)
本学所蔵なし
食材を選ぶ時、少しでも安いものを選ぶ人は多いと思いますが、そのとき、その食材がなぜ安いのかと考えたことがありますか。私が『食卓の向こう側』のシリーズを是非紹介したいと思ったのは、私たちはもっと自分の食べているものに関心を持つ必要があると思うからです。
 このシリーズの中には、食に関する驚くべき事実がたくさん書かれています。コーヒーフレッシュのミルクが実はほとんど油で出来ていること、清涼飲料水にはシュガースティック十数本分の砂糖が入っていること、知っていましたか。私は驚きました。中でも特に、『食卓の向こう側 第6部~産む力、産まれる力~』には、知識も持たず、何も考えずに食べていることがどんなに危険で無責任なことか、思い知らされました。副題が示すように、第6部は母親の食生活が赤ちゃんに与える影響が詳しく述べられています。最近「難産」が多くなったといわれていますが、食事は、難産になるかどうかに関与する重要な要因の一つなのだそうです。本人だけでなく次世代にまで影響を与えるとは、食べ物の力を侮ることはできません。また、何を食べるかだけではなく、「食べ方」も重要です。罪を犯してしまった青少年には、家族と食卓を囲むことなくいつも一人で食べていた人が多いのだそうです。食生活の貧しさが犯罪にも繋がってしまうことが浮かび上がってきます。食事がいかに私たちの体と心を作っているのか、いかに現代日本人が食を軽んじているのか、思い知らされます。
 このシリーズは、健康を作る食生活へのヒントも与えてくれます。自分の食事には問題があると思っても、いきなり180度変えることは難しいですよね。しかし、たとえば外食するとき、単品物のカツ丼やうどんではなく、野菜も付いている定食を選ぶといったことはすぐにできるのではないでしょうか。実は本書には、こうしたヒントがたくさん出てきます。このシリーズを編集した人自身が、自分の食生活を省みて改善に努力する様子が、具体的に紹介されているのです。時々挫折して1歩後退、あるいは2歩後退すらしてしまうのですが、反省して、また「半歩先」へと進もうとする姿には、「なかなかいいことばかりできないのが、普通だよねえ。でも、私も『半歩先』へと、やってみよう!」という気持ちを呼び起こされます。
 医療従事者を目指す私は、健康な人が自ら病を招いている姿、食生活の不順のために病に冒され苦しんでいる姿を、できれば見たくありません。食べ物が体を作ることをしっかり自覚し、「安い」というだけで食品を選ばず、その背景を考えることのできる知識を身に着けたいと思います。それだけでなく、人々にもその知識を持ってもらえるよう働きかけることのできる力を身に着けたいと思います。
 このシリーズは13部構成となっています。手っ取り早く読みたいなら、総論編である1部をまず読んでください。その中でもっと知りたいことがあれば、他の部を読めば詳しく説明されています。また、活字が苦手な人は、実はこの本は「コミック」としても出ているので、こちらを読んでもいいかもしれません。活字版でもコミック版でも、とにかく是非一度、手に取ってみてください。