『金子みすず童謡集』
著者情報等 | 金子みすゞ著、角川春樹事務所、1998. |
寄稿者名 | 教授 北島 茂樹(2011年8月) |
本学所蔵 | http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=37243 |
ここで紹介している金子みすゞの「童謡集」に収載されている詩歌は、そのいくつかは教科書に取り上げられるようなものであるので、皆さんも既にご存知であろう。たとえば、「大漁」では、「…大羽鰮(いわし)の大漁だ。浜は祭りのようだけど、海のなかでは何万の鰮のとむらいするだろう。」と、短い詩のなかに二つの光景を写し込んでいる。「星とたんぽぽ」では、「…昼のお星は眼に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。」と、表面的なものによって判断しがちな私たちの日常を省みるように誘っている。「小さなうたがい」では、「…女のくせにってしかられた。兄さんばっかしほんの子で、あたしはどっかの親なし子。ほんのおうちはどこかしら。」と、男性・女性のありかたについての世の中の常識に対してささやかに抗議している。…
彼女が26年の生涯でつくった詩歌は数多くあるが、彼女の作品には特徴がある。それは、世の中の出来事は常に、光と影、強者と弱者、表面と本質、絶望と希望、常識と変革、表層と深層などが‘裏合わせ’であることを観想し、場面のなかにそれらを表現しようとしている点にある。
私たちの社会は、いよいよ先行き不透明な時代となっていくだろう。人間は状況を伴った群れのなかにあって、しなやかに生きていかねばならない。私は、しなやかさは、立ち位置と柔軟さから生まれると信じている。ステレオタイプなものの見方を脱却するためにも、人間としてのやわらかな感性を養うためにも、一度この童謡集を味わってみてはどうだろうか。
ちなみに、山口県長門市仙崎には「金子みすゞ記念館」がある。