『紙つなげ!彼らがほんの紙を造っている』


著者情報等佐々涼子著、早川書房、2014
寄稿者名1年生 実崎 歩美(2016年1月)
本学所蔵なし
 ノンフィクション・ライターの佐々涼子氏による、『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』という本を御紹介します。
 この本を読むきっかけとなったのは、いとこから送られてきた一通のメールです。「この本読んだよ。泣けるよ」という短い二つの文に、本の写真が添付されていました。それを見て、「専門書みたいやし、泣けるわけないやろ」と思いました。しかし、読んでみると、ティッシュなしでは読めない一冊でした。
 本書は、2011年3月11日の東日本大震災で被災した日本製紙石巻工場で働く人々が、絶望から立ち上がって復興を遂げるまでの経緯が綴られています。3月11日のあの震災後の津波に、宮城県石巻市の日本製紙石巻工場は呑みこまれ、完全に機能停止してしまいました。その状況は、従業員の誰もが「工場は死んだ」と口にするほど絶望的でした。しかし、石巻製紙工場は日本の出版用紙の主要生産拠点のひとつであり、この工場が止まれば日本の出版業は大きな影響を受けます。「何があっても絶対に紙を供給し続ける」という出版社との約束を守ろうと、電気もガスも水道も復旧していない中で、工場のため、石巻のため、そして、出版社と本を待つ人のために、家を失った人も、家族を失った人も、「もう一度煙突に白い水蒸気を上げよう」と、立ち上がったのです。本書には、工場長以下従業員たちの、挑戦が記されています。
 皆さんは、気軽に買ったり借りたりして読んでいる本が、どこからきたのか、どんな技術で作られているのか、誰のどのような想いが込められているのか、知っていますか。考えたことがありますか。私は、本書を読むまで、そんなことは考えたこともありませんでした。新しい本を手にしたときの心地よい重み、ページを開いたときのインクの匂い、表紙やページの手触り、それらを感じながらページをめくるのも、心に残った言葉やページに印がつけられるのも、すべて紙の本だからこそできることです。一冊一冊の本に、職人の技術と想いが込められているのです。さらに、私たちの知らなかった震災後の苦しみと、それに負けずに工場を復興させてくれた人々の涙と汗があることを、本書は伝えてくれます。
 本を読めることの幸せと感謝を噛みしめられる一冊です。ぜひ読んでみてください!