『木のいのち木のこころ: 「天・地・人」 』


著者情報等西岡常一、小川三夫、 塩野米松著、新潮社、2005.
寄稿者名副学長 坂本 洋子(2008年9月)
本学所蔵http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=32055
初秋の候、読書の季節も近づきます。私が今一冊を選ぶなら、宮大工としての名匠「西岡常一」氏のこの名著を、お薦めしたいと思います。是非読んでみてください。

「木のいのち木のこころ  天・地・人」 新潮文庫


 法隆寺や薬師寺などの堂塔を復元再興した日本一の宮大工西岡氏のこの名著に触れ、何か、ものの本質を極めた人だからこそ言える言葉の数々に深く感動したのは、もう十数年前のことでしょうか。素朴な語り言葉の中に、西岡氏の尽きせぬ叡知と工匠として清く貫き遂げた人生を感じることが出来ます。初版は1993年、ハ-ドカバ-の3部作で大きな本でしたが、3年前に読みやすい文庫本になりました。「天」は西岡氏自身の語りを作家塩野米松氏が書き取り、「地」は西岡氏を尊敬して飛び込んでいった内弟子小川三夫氏の西岡棟梁から受け継いだ宮大工としての語りをやはり塩野氏がまとめて、「人」は小川三夫親方率いる徒弟制度の宮大工集団「鵤工舎」の若者たちが技術者として人間として育っていく姿を塩野氏が執筆しています。


 「人を活かす」、「人を育てる」ことに重ねて、多くの名言と示唆を得ることが出来るでしょう。

 「木は生育の方位のままに使え」、山の南側の木は細いが強い、北側の木は太いけれども柔らかい、生育の場所によって木にも性質があるんですな。これは右に捻れているから左捻りのあの木と組み合わせたらいいということを山で見分けるんですな。これは棟梁の大事な仕事でした。

 今は木の癖を隠して製材してしまいますから、見分けるのによっぽど力が必要、製材の段階で性質が隠されてもそのまま捻れがなくなるわけではないので、後で出るんです。それを見越さなならんというのは難しいでっせ。癖というのはなにも悪いもんやない、使い方なんです。癖のあるものを使うのはやっかいなもんですけど、うまく使ったらその方がいい。癖のない素直な木は弱い。力も弱いし、耐用年数も短いですな。

 1300年も建っている法隆寺の礎石について、、、自然石の石の上に立てられた柱の底は方向がまちまちです。地震が来て揺すられても力のかかり方が違いますわ。それと何よりボルトのようなもので固定されていませんから地震が来て揺れ、いくらか柱がずれるでしょうな。しかしすぐに戻りますな。こうしたそれぞれの違った「遊び」のある動きが地震の揺れを吸収するんですわ。