『孫の力:誰もしたことのない観察の記録 』


著者情報等島泰三著、中央公論新社、2010.
寄稿者名3年生 香野 江季(2010年6月)
本学所蔵http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=34618
本書は観察のプロであるサル学者の著者が、孫娘の誕生から6歳までの成長を記録したものである。人生の中で最も大きく変容を遂げるこの時期を私たちは皆既に経験しているわけだが、その間にどのように心を発達させていくのかは未だ解明されていない。この本には人間の心の基礎が生まれていく瞬間の記録がたくさん詰まっている。

 「観察」は見た事象を書き残すものだと私は思い込んでいたが、本書は、孫娘の動作や表情、その時の状況だけでなく、彼女と接する時の著者自身の心情や行動の変容までが記述され、まぎれもなく「孫が著者に与えた力」が記録されている。例えば、5歳の孫娘に「折り紙でカブトムシ作って」とおねだりされた著者は、今まで折り紙などしたことがなかったのに、複雑きわまりない一晩の作業を成し遂げ、立派なカブトムシを作り上げる。まことに、孫は祖父の新しい能力を引き出す力を持っているのである。

 しかし一方、「孫の力」を伸ばすのは、祖父母や両親など周りの人々なのだ。私がこの本を読んで最も強く感じたのはこのことである。恐怖を乗り越える、思いやりを持つなど、孫の心に新しい芽が吹くときには、必ずそこに温かく見守っていてくれる大人の存在がある。手が冷たいときいつも祖父母に手をさすってもらっていた孫娘は、あるとき祖母の手が冷たいことに気づき、自分の手が冷たくなるのも気にせず祖母の手を温める。幼い心が思いやりという花を咲かせた瞬間の記述は、何度読んでも目頭が熱くなってくる。

 孫も、祖父母も、人間というものは、人との関係の中で成長し続けるのだということを私はこの本によって確信した。しかし、人間関係の中で変化する人間だからこそ、時にはその人間関係の影響によってマイナスの方向に変化してしまうかもしれない。看護師は人と人との間、それも病気など苦しみを持っている状態に介入していく立場にある。よい変化を生み出す人間関係を築くよう介入していけば、少しずつ少しずつ、世界全体がよくなるかもしれない。看護の力で、世界に平和という花を咲かせられるかもしれない。そう、私は夢見る。

 読みながら何度も笑ってしまったこの本、面白いがスルメの様に味わい深いこの本を、特に看護学生の皆さんに薦めたい。