『エビと日本人』


著者情報等村井吉敬著、岩波書店、1988.
寄稿者名1年生 増田 有希(2011年1月)
本学所蔵http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=27239
2010年の「学長が新入生に勧める100冊」の中にあった1冊が、今回私が紹介する、『エビと日本人』です。タイトルを見て私は、「なぜエビなのだろう?エビが日本人と何の関係があるのだろう?」と不思議に思い、この本を手に取りました。

 みなさんは、エビについて深く考えたことがありますか?おそらく、考えたことがない人がほとんどだと思います。現代の私たちにとってエビは、フライ、てんぷらなどにして、日常の中で当たり前のように食べるものです。しかし、50年ほど前、日本人にとってエビは、バナナと同様、なかなか口に入らない高級品だったのです。その後、輸入の急増によってエビは大衆化され、日本は、国民1人あたり年間1万円近くをエビに費やすと言われるほど、世界一のエビ消費国となりました。消費量の9割を輸入に頼っており、その背景には、養殖によるマングローブ林の伐採や、低賃金での過酷な労働、伝統的漁法の衰退など、さまざまな問題が潜んでいるのです。

 本書は、エビ研究会という組織のメンバーが調べた事実を経済学者である著者が報告したものですが、著者自身も現場に赴き、現地の人々と触れ合い、時には冷凍ロブスターの運搬作業を手伝ったりもしています。エビを獲る人々、エビを育てる人々、エビを加工する人々、エビを売る人、食べる人、更にエビという生き物についても、詳しく述べられていて、エビという海産物を通して、さまざまな問題が浮かび上がってきます。

 中でも私にとって最も衝撃的だったのは、エビを加工する人々の現状です。エビを冷凍加工する工場で働いている九割以上が女性で、その殆どが未婚であるとのことですが、それは、彼女たちがこの作業に向いているからではありません。最も安い賃金で働かせることができるからなのです。賃金は、単純に換算して日本の基準で判断することはできませんが、一日7時間働いて100円に満たない場合もあるそうです。ところが、工場のある街で大きなエビの塩焼きを食べたら190円、何と、彼女たちが汗水たらして働いた約2日分にあたる値段なのだそうです。これは、私にとって全く受け入れ難い事実でした。かといって、今私たちがエビを食べなくなれば、彼女たちを苦しませずにすむのでしょうか・・・・。

 私が本書を通して思ったことは、現代の日本人は、「食べる」ことだけ考えて、誰が作ったのか、どのように作られたのかなどの背景に、無頓着すぎるということです。これは、エビだけに当てはまることではなく、すべての食べ物、いえ、全ての品物に当てはまるのではないでしょうか。私たち日本人は、物が手に入るのを当たり前と思っていて、感謝の気持ちを忘れていないでしょうか。私たちは、エビが教えてくれるさまざまな問題を真摯に受け止め、日々受け取っている様々な恩恵の背景にある事情や問題について考えなければならないと思います。

 著者は、最後に「エビを獲り、育て、加工する第三世界の人々とエビ談義ができるような、生産者と消費者消費者のあいだの、顔の見えるつき合いを求めてゆきたい」と述べています。本書の発行は20年ほど前で、情報は少し古いですが、本書の伝えるメッセージは決して古くはなっていません。また、2007年に『エビと日本人Ⅱ』が発行されています。こちらは私もまだ読んでいませんが、是非読もうと思っています。図書館に入ってすぐ左手の岩波新書の棚に、『エビと日本人』も『エビと日本人Ⅱ』も置いてあります。1人でもこの本を手にとってくださる方がいたら、嬉しいです。