『ファウスト』


著者情報等ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ著、相良守峯訳、岩波書店、1958 (原作1808).
寄稿者名1年生 木元 達也(2010年11月)
本学所蔵http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=21322
私が紹介する作品は、ドイツを代表する文豪ゲーテの戯曲『ファウスト』である。これは、はじめの部分が発表されてから実に60年掛かって完成したという、大作である。

 この作品には、ファウストとメフィストという二人の人物が旅をして様々なことを経験する様が描かれている。主人公であるファウストのモデルとなったのは、ドイツの民衆の間で「悪魔と契約した黒魔術師」と噂されていた人物で、医学・錬金術・占星術を修めていたとされ、ゲーテの作品より前から様々な作品の題材になってきた。ゲーテは彼を、神と悪魔の賭けの対象となった人物として描いている。「常に努力する人」であると神の言うファウストを是非とも誘惑してやろうと、彼を旅に誘い出しその途上であらゆる快楽を差し出すメフィストも、ドイツの民間に伝えられている誘惑を司る悪魔である。

 この作品の大きな特徴は、戯曲として書かれている事である。小説などとは違い台詞で構成されており、台詞は若干大げさに書かれているので、人の感情などが分かりやすい。この作品の台詞には、後に他の作品に引用される名言が多数含まれている。「時よ止まれ、汝は美しい!」という引用を、目にしたことはないだろうか。これはこの作品の要となっているフレーズなのである。

 私は、これを読む前にあらすじをだけを聞いて、ファウストと言う人物は「悪魔に心を売る弱く狡い人間」だと思ったが、読んでみると、それは大きな間違いであった。ファウストの旅を通して、人間の心の弱さは勿論、その強さ、また、醜い部分と美しい部分など、人間の本質について考える機会を得ることができた。200年も前に書かれた作品であるが、そこに描かれているファウストの心の揺らぎは、私たちにも決して無縁ではない。

 この作品に刺激されてできた作品は、様々なジャンルに数多く存在する。日本では、手塚治虫が『ファウスト』『ネオ・ファウスト』というタイトルの漫画作品を発表しているが、後者は舞台が現代に設定されたものである。宝塚でミュージカルとして公演されたこともある。海外では、この作品に想を得た様々な音楽やオペラ作品が数多くあり、また、映画の題材にもなるなど、影響を与え続けている。