学長室便り No.7 マインドフルな学び舎を

新しい年を迎えた日に能登半島地震が起こり、尊い生命が失われ、多くの方々が被災をされました。亡くなられた方々に深く哀悼の意を表すとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。断続的な余震や厳寒の状況が続いており、多くの皆様が不安な日々を送っておられます。被災された皆様にとって安全・安寧のときが持てるよう、一日も早い復興をお祈り申し上げます。

現地で救命・救助、支援にあたられている方々に深く敬意を表します。本学においては、日本赤十字社の一員として全学をあげて支援に取り組んでおります。学生が主体的に企画した募金活動は学内ならびに学外において輪を広げています。引き続き息長く復興支援に取り組んでまいります。

世界に目を向けると、イスラエル軍による攻撃が続くパレスチナ自治区ガザでの死者は、2万人を超えています。そして、ウクライナではロシアによる侵攻による激しい戦闘が続いています。厳しい寒さ、劣悪な衣食住環境はこの戦火を生き延びている人々の尊いいのちに脅威をもたらしています。

我々は、まさに危機の時代を生きているといえます。危機の時代を生きぬく保健・医療・福祉の新たな在り方が必要とされています。Covid-19のパンデミックや戦禍による健康危機に対し、世界中の保健・医療・福祉分野おいて、人々の安全と幸福を維持しながら、前例のない健康危機に効果的に対応するための課題に継続的に取り組んでいます。前例のない課題が次々に起こる中で、今、予測不可能な事態に効果的に対処するような組織が求められています。予測不可能な事態に効果的に対処できる組織の在り方として、近年、高信頼性組織high-reliability organizations (HROs)という概念・原則、その有用性が着目されています。信頼性の高い組織とは、原子力制御室や空母の飛行甲板のような組織であり、非常に複雑で、動的で、相互依存的で、エラーに寛容なコンテキストで稼働しているにもかかわらず、一貫してエラーのないパフォーマンスが特徴とされています。高信頼性組織の根底にある理論は、組織の従事者が小さな問題を探して報告する「集合的マインドフルネス」の文化を構築することで、組織にリスクをもたらしたり個人に害を及ぼしたりする前に、システムが問題に対処するのに役立つというものです。想定外の事態を見慣れたものとして常態化して制御不能になる前に、当事者の視点から組織の人々が的確に判断し、行動することが、危機の時代の保健・医療・福祉にはまさに求められているのです。

これからの保健・医療・福祉の分野で活躍する専門職を育成するには、「集合的マインドフルネス」の文化に根差す学び舎が必須です。「失敗へこだわる」「単純に解釈しない」「オペレーションに敏感になる」「レジリエンスに全力でとり組む」「専門性を重んじる」などの基本的姿勢を身に着け、職種や職位にかかわらず状況に応じて変化する「適切な」専門性を引き出し、想定外の状況でも、組織全体が機能マヒに陥らない柔軟な対応を行うことができる組織や人材育成が必要です。そのためには、率直なコミュニケーションを通じ、最新の状況認識・全体像をつくることができるマインドフルな組織文化の醸成が不可欠です。

ここ数年来すすめてきた自校教育がめざす目標の一つには、マインドフルな組織文化の醸成が含まれています。学長杯で学年を超えて実践力を競う経験は、学年や学生と教職員という枠を超えて、個々の意見を尊重し、集結することで思ってもみなかった力がみなぎる体験となったと思います。また、昨年末に「日本赤十字社 イスラエル・ガザ人道危機 赤十字オンライン活動報告会~武力衝突の激化から2カ月~」を視聴し、ロウソクの灯に平和の祈りを捧げる」ときは、ともに、「今、私たちにできること、自分の考えを行動にしてみる」という勇気を沸かせ、大切な人々を想うことで自身の安寧と世界へのつながりを感じ、平和の大切さを改めて感じる機会となったでしょう。

これからも、本学ではマインドフルな学び舎づくりをめざしてまいります。