学長室便り No.3 共同体(コミュニティ)

最近の嬉しいことの一つ、6月に開催した学内献血に100名近くの学生・教職員が協力したことに対し、福岡県赤十字血液センター所長・熊川みどり先生より御礼のお言葉を頂けました。嬉しい成果の背景には、血液センターのご尽力、学生奉仕団献血部が準備段階から啓発活動を地道に実施してくれたこと、授業時間の調整やアナウンスなど教職員による細やかな配慮があったことなど、多様な気遣いがあったことを忘れてはなりません。今後、学内献血は11月の遥碧祭にも予定されており、さらなる協力者の更新が期待されます。熊川先生の研究によると、「献血回数が2回以上のものは献血継続率が高かった」という結果があり、【1回だけではなく、次にまた献血に行く機会を与える取り組みが重要である】との示唆がなされているとのこと、学生主導による献血活動の継続は、若年層での献血者が減少している現状の中で、本学学生の「命の大切さ」に対する高い問題意識の表れであると言えるでしょう。

献血に対する高い問題意識は、人道理念のもと、赤十字の関連組織やシステムと共に創ってきた看護教育の共同体(コミュニティ)の一つの所産といえます。今、変動が激しく、混迷を深める社会において、コミュニティは大きな意味を持ちます。人々は人類の起源からコミュニティを形成し、互いに助け合い、社会的なつながりを築き、個人のアイデンティティや所属意識を涵養し、支え合いや相互作用を通じて共有する目的や価値を探究してきました。コミュニティは、地域性を前提とした相互作用に基づく直接的な経験に依拠するもののみならず、場所やエリアを超えて、大切にする目的や価値を共有し、その意味を探究する社会的な相互作用(例:バーチャル・コミュニティ)をも含むとされています。また、近年、コミュニティの多様性・包摂性、持続可能性の重要性が強調されています。本学の学内献血の例に示されるように、学生の人道に基づく行いや価値形成は、大学の学習だけでは身に付くものではありません。赤十字の関連組織やシステムと共に創ってきた看護教育の共同体における多様な対話や交流に学生が参加し、平等な機会の中で、個々人の声や意見が大切にされる体験を経て、「人道」の意味を見出すことが必要です。

危機の時代、このようなコミュニティの機能(あるいは力)は、幾重にも立ちふさがる社会的課題(少子高齢化、貧困や格差、生産性や働く意欲の低下、ボランティア意識・活動の低下など)を乗り越える上で、大きな原動力となります。私が、かつて参画した慶應義塾大学と藤沢市による共同研究では、高齢者グループがコミュニティで「健康長寿」をめざすグループ体操に取り組むことで、身体的・精神的、社会的wellbeingを包含したバランスのとれた健康状態を維持していました。さらに、個人的な健康のみならず、他者に対するケアや互いにいたわり合うことを通してコミュニティにおけるつながりや安全を確かなものにし、さらに、個人を超えて健康の価値を探究し、互いの潜在性や信頼・尊敬を発展させていることがわかりました。コミュニティでのグループ体操は、近隣のコミュニティにも開放され、コミュニティの垣根を越えて生活する人々を含む参加者が増えたことで、交流の波が広がっていました。つまり、定期的なグループ運動は、地理的および世代の境界を越えてコミュニティを拡大するための触媒として機能し、参加者はより広い人々の輪の中でつながりを強化していることが明らかになりました。このようなコミュニティの機能(力)をExpanding community(拡張するコミュニティ)と概念化しています1)。危機の時代を生きるには、個人を超えて健康の価値を探究し、互いの潜在性や信頼・尊敬を発展させるコミュニティの形成が必須であり、そのことが持続可能な社会への実現につながると考えます。我々の学び舎もExpanding communityとして更なる発展をめざしましょう。

1) Komatsu, H., Yagasaki, K., Saito, Y., Oguma, Y. Regular group exercise contributes to balanced health in older adults in Japan: A qualitative study. BMC Geriatr. 2017 Aug 22;17(1):190. doi: 10.1186/s12877-017-0584-3.