暖かな春の日差しと満開の桜、そして来月には令和という新しい時代を迎えようとする今日、晴れて入学式を迎えられた看護学部百二十八名、大学院修士課程九名、博士課程三名の皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。特に看護学部の皆さんには、「数多くの道がある中で、看護学を選んでいただいてありがとう」、「素晴らしい選択をしましたね」という私の素直な気持ちもお伝えしたいと思います。
また、保護者の皆様方には、お子様のこれまでの厳しい受験競争を見守り、支えていらっしゃいましたことに対し、心からの労いとご入学のお祝いを申し上げます。
本日はご来賓として、福岡県副知事江口勝様、宗像市長伊豆美沙子様、福岡赤十字病院長寺坂禮治様をはじめ、実習でお世話になっている施設の皆様、日本赤十字九州ブロック各県支部の皆様、地域の関係者、学生支援の会、同窓会など本学の教育・運営を支えてくださっている多くの皆様のご臨席をいただいております。年度当初のたいへんお忙しい中を誠にありがとうございます。
日本赤十字九州国際看護大学は学校法人日本赤十字学園が有する六つの大学の一つとして、二〇〇一年に開学し、これまでに一六〇〇人を超える卒業生を世に送り出してきました。初期の卒業生は、各地の赤十字病院をはじめとする医療施設で中堅となり、リーダーシップを発揮しておりますし、地域での保健活動に携わる者、本学の教員として後輩の教育に力を注ぐ者など、さまざまな活躍をしています。また、大学名に「国際」がついている通り、海外で活躍するという夢を実現して、開発途上国で保健・看護活動に携わっている者も多数おります。
日本赤十字学園の設立母体である日本赤十字社は、ご存じの方も多いと思いますが、明治十年の西南戦争の際、佐賀出身の佐野常民公が傷病者救護の必要性から「博愛社」を創立したことに始まります。本学で学ぶ皆さんには、この九州の地が日本の赤十字活動の原点であることをしっかりと認識をしてほしいと思います。また、日本赤十字社は百三十年も前から看護師の育成を行い、以来、数多くの優秀な看護師を輩出し、我が国の看護を牽引してきました。今日でこそ、看護教育は様々な設立母体によって行われていますが、ほんの数十年前までは、日本の看護教育は日赤系、国立系、キリスト教系という3つが主流でした。そのなかでも赤十字の看護師たちは、明治以降の三陸大津波や磐梯山の噴火、太平洋戦争時などでの救護活動を通して、国民に最も近く、また頼れる存在として認識されてきました。
皆さんは、そのような歴史と伝統のある赤十字の看護教育を受けることになったわけですから、大いに誇りに思い、自分たち自身がその伝統を受け継ぎ、未来に渡していくという気概を持っていただきたく思います。
本学では、看護学部で学ぶ学生には、次に挙げる四つの態度、姿勢を備えた人であることを求めています。それは、人間の尊厳と人権を大切にできる人、主体的、創造的に考え行動しようとする人、看護の基盤となる広い教養を学び、専門的知識を身につけたいと考えている人、そして赤十字の理念を理解し、国際的活動に関心を持っている人というものです。皆さんは、この四つを持っている人として入学されたわけですが、人間の尊厳、人権、主体性、創造性、看護、教養、赤十字の理念など、どれも抽象的な概念です。これからの四年間の学生生活を通して、これらを自分の言葉で説明できるようになるとともに、行動に表わすことができるよう学びを深め、人間性を高めていただきたいと思います。
そのためには、いろいろな価値観を持った人々と出会い、言葉を交わし、多様な文化を理解すること、多くの本を手に取り、人文科学、社会科学、自然科学の幅広い教養を身につけること、また時には美しく感動的な芸術に触れることなどが大切です。そうして、豊かな感性と知性を持った人間に育ってほしいと願っています。
大学で学ぶことの大きな意義は何でしょうか。私は自ら立てた問いを探索し、自分なりの解を得ていく学修プロセスを踏むことだと考えています。その集大成は四年次に取り組む卒業研究でしょうが、日々の学修のなかでも常に、なぜ?どうして?を繰り返しながら学びを深めていくこと、それが求められているのです。それらの積み重ねはやがて、多様性と不確実性が特徴と言われるこれからの時代を生きる皆さんにとって、最も重要な力になるはずです。そしてこの学修プロセスを通じて、皆さんが手に入れることができるもう一つの大きなもの、それは生涯の友人であり、先生です。学生時代に他者との深いつながりを作ること、それは皆さんの一生の財産になります。これからの四年間が、意義のある素晴らしい時間になりますよう、皆さんの精進を期待しています。
大学院生に一言申し上げます。今年入学された方の中には、仕事を持ちながら進学された方もおり、これから始まる慣れない学究生活は苦労も多いと推察します。しかしながら、自分自身の能力を開発するため、あるいは看護現場での疑問を解決するために、大学院で学ぶという皆さんの決断は本当に素晴らしいことです。どうか周囲の方々の力も上手に借りながら、学修の時間を生み出し、院生生活を完遂していただきたく思います。大学院の醍醐味は、本格的な研究を通して「私の発見」を手にすることができる喜びと言えます。そして、それが看護学の新たな知の創造に貢献できることです。これからの二年間、三年間における皆さんの研究成果に大きな期待を寄せております。
最後に、本日入学された皆さんの学生生活が充実したものとなりますよう、私ども教職員一同、力を合わせて支えていく決意であることをお伝えいたしますとともに、ご来賓の皆様方には、従来にも増して本学の教育・運営へのご協力とご支援をお願い申し上げます。そして保護者の皆様には、学生たちの学びを今後も温かく見守り、支えてくださいますようお願いをし、本日ご列席の皆様方のご健康とご多幸を祈念いたしまして、本日の式辞と致します。
平成三十一年四月四日
日本赤十字九州国際看護大学
学長 田村 やよひ