平成30年度 学長室便りNo.1 入学式 学長式辞

本日、晴れて入学式を迎えられた看護学部学生百一名、大学院修士課程学生八名、博士課程二名の皆様は、厳しい受験勉強の期間を経て、本学に入学されました。心からの歓迎とお祝いを申し上げます。
 
また保護者の皆様方におかれましても、お子様がたの夢の実現に向けて、長い間の受験勉強を見守り、支え励ましていらっしゃったことと思います。本日の入学のお喜びはひとしおかと存じます。まことにおめでとうございます。
 
本日はご来賓として、福岡県副知事大曲昭恵様、宗像市長谷井博美様、福岡赤十字病院長寺坂禮治様をはじめ、本学の教育・運営を支えてくださっている地域の関係者の皆様、実習でお世話になっている施設の皆様、日本赤十字社九州ブロック各県支部の皆様、学生支援の会など、多数の方々のご臨席を賜っております。年度初めのたいへんお忙しい中を誠にありがとうございます。

日本赤十字九州国際看護大学は日本赤十字学園が有する六つの大学の一つとして、二十一世紀の始まりとともに開学し、今年で十八年目を迎えました。本学は教育理念として、赤十字の基本原則である人道に基づき、個人の尊厳を尊重する豊かな人間性を培い、専門の学芸を授け、国内外の幅広い領域で看護を主体的かつ創造的に実践し、人々の健康および福祉の向上に貢献するための基礎的能力をはぐくむことを掲げております。

また赤十字六大学の中では唯一「国際」というキーワードが入った大学として、グローバル社会の進展を見通して、広く世界に羽ばたき看護を展開できる人材育成を早い時期から目指してまいりました。このため開発途上国で活動する卒業生も数多く輩出しております。また、人道の理念を基調としたカリキュラムの成果は、二年前の熊本地震直後から現在に至る学生たちの積極的で多彩な支援活動や、昨年の九州北部集中豪雨の被災地への支援活動などに端的に表れています。

世界に眼を転じれば、人々の健康や安全を脅かす様々な問題が起きています。経済格差や人種差別に起因するテロや紛争は、南スーダン、シリアなどで続き、バングラデシュ南部では六十万人を超えるミャンマーからの避難民が暮らし、北部では記録的な大雨による大洪水が起きました。こうした地域に対して、日本赤十字社は継続的に看護師や医師を派遣して、人道の理念を具体的な支援活動として展開しております。

かけがえのない人の命に寄り添い、苦痛を取り除き、水や食べ物を届け、安心と安全を確保することは、いつでもどこでも必要なことです。皆さんは本学の四年間の学修の中で、こうした人道援助の基本となる人間の尊厳と権利を擁護する力だけでなく、自分で自分を高めていく力も、多様な人々とともにチームで働く力も、問題の解決を図る力も、さらに看護の専門性を探求し発展を促す力も身につけていただきます。四年後には、今とは違った新しい人間になる、今日がその出発の日です。次々と新しい学修課題が現れて、時には不安になったり戸惑ったりすることがあるかもしれませんが、友人や教職員、実習指導者、そして保護者の方々の助言や支援を上手に受けて、しっかりと乗り越えていってください。

大学生活を始めるにあたり、皆さんに特にお願いしたいことがあります。
それは、大学は学問するところだということです。つまり、高校までのように、明快な答えがあるものを導き、暗記するという勉強の仕方ではなく、自ら疑問を発し、それを問い続けていくプロセスを大切にしていただきたいのです。看護学は自然科学でも社会科学でも人文科学でもなく、それらを融合した人間科学です。看護の対象となる個人、家族、集団には個々の特性や歴史があり、価値観も異なります。このような場合、答えが一つではありません。いくつもの答えの可能性を探し、最適な答えを吟味し、決定する。そのために、常に問い続けるのです。それが学問する姿勢なのです。

アメリカのカリフォルニア州立大学の推計では、皆さんの年代の人は半数が百歳まで生きるそうです。皆さんが百歳になるまでの間には、今想像もできないさまざまな社会の変化、科学技術の変化が起きることでしょう。良いことばかりではありません。この西日本にも、東日本大震災級の地震が極めて高い確率で起きることが想定されています。震災への対処や復興は皆さんが社会に出てから直面する課題になるのです。学び方を学べば、これからのこうした正解のない多様な変化に対応する力を手に入れることができるのです。皆さんの柔軟で吸収力のある、そして創造的な頭脳をいかんなく発揮して、自らを鍛えることを大いに期待します。

もうひとつ心掛けていただきたいこと、それは、さまざまな領域の書籍を読み、友人たちや時には教師とも議論することです。それは、学生時代には自分の思想、もっと易しく言えば、ものの見方や考え方の土台を造る時期だからなのです。自分は何に価値を置いて判断し行動する人間なのか、ということをしっかりと自己認識できるまでには時間が必要と思いますが、その土台造りは学生時代にあると、私自身の経験からも強く思うところであり、皆さんに今、伝えておきたいと思います。

大学院に入学された皆さんに一言申し上げます。本学では今年度から、大学院生の研究室を管理棟の二階に移転し、改装をいたしました。これまでに比べて図書館も近く、明るく快適な研究環境を提供することができました。大学院こそが高等教育の根幹だといわれています。この新しい環境で、新たな看護の知を発見し創造するために、友人や先生たちと活発に学術的批判の応酬や知的格闘を楽しんでください。そして、学問することの面白さも厳しさも学部時代よりさらに深く体験し、意義深い学究生活を送ってください。二年後、三年後の皆さんの研究成果を大いに期待しております。

最後に、この宗像市アスティのキャンパスは、四季折々の自然の変化が豊かな土地です。私たち教職員はともに皆さんを、厳しくも大切に育てていきたいと思っています。一緒に、がんばりましょう!
皆さんの充実した学生生活と、本日ご列席の皆様方のご健勝とご多幸を願いまして、入学式の式辞と致します。

 
平成三十年四月五日 
日本赤十字九州国際看護大学 
学長  田村 やよひ