今年の夏も猛暑が続き、一方で7月5日には九州北部豪雨により、朝倉市や東峰村、日田市などでは甚大な被害が生じました。尊い命を亡くされた方々、そしてご遺族の皆様には心からのお悔やみを申し上げます。被害地域の皆様方にはお見舞いを申し上げますとともに、1日も早い復興と平穏な日々が訪れますよう願っております。本学ではわずかでも皆様方のお力になれたらと考えて、学生たちは泥の運び出しや家財の整理、募金活動に、教員は赤十字福岡県支部と連携して避難所での健康管理に携わりました。
博多で行った学生たちの募金活動は、当日のNHKテレビでも放送されました。ご覧になった方は少なかったかもしれませんが、アナウンサーの質問に対して、学生たちが生き生きと、そしてはっきりと活動目的を話していたことはとても好感が持てましたし、誇りに思いました。
今年度前半を振り返って、2つの思い出深い出来事について記します。
ひとつは6月24日、25日の両日、小倉にある北九州国際会議場で第18回日本赤十字看護学会学術集会が開催されたことです。学術集会長は本学の前学長である浦田喜久子先生が務められました。講演者、シンポジスト、研究者、本学教職員、学生ボランティアなど総勢400人を超える多くの人たちによって、大変意義深い学術集会となりました。ボランティアとして運営に協力してくれた学生の皆さんは、将来看護研究の成果を学会発表する際には、今年の経験が何がしかの力になるだろうと思います。
浦田先生の会長講演「グローバル時代の赤十字の看護と看護教育」は、世界各地でテロ、紛争、大災害などにより人々の命や健康、人権が脅かされている今日の状況に対して、赤十字の原点に立ち戻って、これからの看護や看護教育を考えるという意欲的な講演だったとのことでした。あいにく私は学会運営の用務で聞くことができませんでしたので、学会誌に講演内容が掲載されるのを楽しみにしています。
近衛忠輝日本赤十字社社長の基調講演「赤十字からみた人道の世界地図」では、キューバ、バングラデシュ、カンボジア、アフガニスタンなど人道危機状況下の国々での活動経験をお話しくださいました。自身の命さえも危険な状況でのお話に聴衆は引き込まれ、あっという間に時間が過ぎていきました。
2日目の最後のプログラムには、スイス連邦のラ・ソース大学から来日されたバウマン先生の講演もありました。この講演には、ボランティア学生たちのほとんどが役目を終えていたため参加でき、良い学びの機会になりました。本学では学術集会終了後の27日にバウマン先生をお招きし、学生を対象とした講演会「スイスの看護教育」を開催しました。そして現在は、ラ・ソース大学と本学との学生交流等を進めようと協定を結ぶことを検討しています。
ふたつの目の出来事、それは第46回フローレンス・ナイチンゲール記章授与式のことです。フローレンス・ナイチンゲール記章は、近代看護を確立したナイチンゲール女史の功績を記念して、赤十字国際委員会から2年に1度、戦争や災害時の看護活動、公衆衛生、看護教育などで大きな貢献をした看護師に対して贈られる、看護界で最も名誉ある賞です。
今年の受賞者は、本学の大学院修士課程を平成19年3月に修了された伊藤明子さんでした。8月2日、東京プリンスホテルで開催された授与式には、日本赤十字社名誉総裁の皇后陛下、名誉副総裁の皇太子妃殿下、秋篠宮妃殿下、三笠宮家の寛仁親王妃殿下がご臨席され、厳かな中にも華やかな式典でした。伊藤明子さんは現在、名古屋第二赤十字病院の副院長兼看護部長でもあるのですが、約30年間にわたってマレーシア、東ティモール、アフガニスタン、インドネシア、パキスタンなどで人道危機状況下にある人々の医療救護活動に携わり、国際赤十字の医療チームを指揮してこられました。
授賞式後の講演では、赤十字の看護師としての出発は手術室であったこと、手術の進行と術野を見ながら先の展開を予測してタイミング良く手術器械を渡すなど、チームで手術を成功させる経験が国際救援の現場で役立ったこと、国際活動に導き、背中を押してくれた人々との出会い、人道や中立の理念を厳しい人道危機状況のもとで実践することの困難さ、そして将来、国際的な活動をしたいと考えている看護学生たちへの励ましなどが熱く語られました。
本学としても、大学院修了生がこの名誉あるフローレンス・ナイチンゲール記章を受賞されたことは大きな喜びです。いずれ、遠くない時期に伊藤さんをお招きして、学生たちに講演をしていただく機会を作りたいと考えています。
秋、お米も果物も実りを迎えます。4年生の皆さんは卒業研究を仕上げていく過程ですね。卒業研究は4年間の学生生活の集大成です。どんな果実が実るのか、今から楽しみにしています。
学長 田村 やよひ