平成28年度 卒業式 学長式辞

   三月に入り、ようやく春らしい日々が続くようになってきた今日の佳き日、ただいま卒業証書、学位記を受け取られた看護学部卒業生105名、大学院看護学研究科修士課程修了生10名の皆さん、誠におめでとうございます。皆さんは入学以来、真摯に学業に取り組み、研鑽の結果それぞれの課程を修了し、めでたく本日を迎えられました。また、これまで学生たちの成長を温かく見守り、支えてくださいました保護者の皆様方にも心からのお祝いを申し上げます。

   本日はご来賓として、福岡県保健福祉部次長 大森徹様、日本赤十字社福岡県支部事務局長 河野達海様、福岡赤十字病院院長 寺坂禮治様、日本赤十字社看護師同方会福岡県支部長 松永由紀子様本学同窓会遥碧会会長 池田尚大様をはじめ、九州・沖縄各県の赤十字病院等の幹部の皆様、実習でお世話になりました施設の皆様、宗像市教育委員会、福岡県看護協会、東海大学付属福岡高校、リサーチパーク協議会および宗像市コミュニティ運営協議会の皆様、本学学生支援の会役員の皆様と大勢の方々のご臨席を賜り、平成二十八年度日本赤十字九州国際看護大学卒業式・学位授与式を挙行できますことは、まことに喜ばしく、教職員一同、厚く御礼を申し上げます。

   看護学部卒業生の皆さん、日本赤十字九州国際看護大学での四年間の学生生活では、百余人の仲間たちとともにリベラル・アーツや看護学を学修し、学問することの楽しさや喜び、そして厳しさをも体験されたことでしょう。また、サークル活動やボランティア活動等を通じて、信頼できる友人も得るなど、意義深く、密度の濃い四年間だったことと思います。

   ここで今一度、本学のディプロマ・ポリシーを思い起こしてください。

   「人間の尊厳と権利を擁護する力」、「自己教育力」、「チームで働く力」、「問題解決力」、そして「看護の専門性を探求する力」。

   この5つの力を身につけたことの証明が卒業証書であること、このことを深く認識していただきたいと思っております。特に最初の「人間の尊厳と権利を擁護する力」は、本学の教育が赤十字の人道の精神に則って行われていることと固く結びついています。その根幹は、あらゆる状況において人間の苦痛を予防し軽減するために努力し、生命と健康、尊厳を守るという「人道」の精神の実現にあるという一点にあります。

   私は昨年四月に着任しましたが、その二週後に起きた熊本地震に対する本学学生たちの反応は、一生忘れることがないと思っています。それは、ホームページの学長室便りにも書いたことですが、15日には学生たちが「赤十字の看護学生として、自分たちに何ができるか」と自主的に集会をもち、そして多様な意見の中から、どの組織よりも早く16日から、それは夜中に本震のあった日でしたが、募金活動を開始したことでした。「苦難に直面している人々に心を寄せ、何らかの助けの手を差し伸べる」、この赤十字の精神が学生の中に深く浸透していることを目の当たりにし、学生たちの行動力に深い感動を覚えたのです。

   ところで、皆さんが飛び立とうとする社会は今、激動の中にあり、人道にかかわる課題は絶えません。米国ではトランプ大統領の下、マイノリティに対する差別的な政策が打ち出され、アフリカの南スーダンでは内戦が激化しています。中東ではISによるテロも収まる状況になく、シリアでは大量の難民が生まれ、ヨーロッパに生きる道を求めています。しかし難民の受け入れに拒否的な国も多くあり、この日本も難民には冷たい国のひとつです。
   我が国について考えても、多くの問題があります。国民の経済格差が広がり、子どもの六人に一人は貧困状態にありますが、支援の手は十分ではありません。福島の原発事故から避難してきた子どもに対するいじめや、神奈川県の障がい者施設における殺傷事件など、社会的弱者の人権、尊厳が踏みにじられている現実が数多くあることを直視しないわけにはいきません。   
このように、赤十字の精神をもって社会に貢献すべきことは国内外を問わず大変多いことをしっかりと認識し、これからの社会をどう作り上げていくか、皆さん一人一人が責任ある社会の一員として、しっかりと向き合っていただきたいと念じております。

   多くの卒業生は、四月から看護実践の場に身を置き、大学で学んだことを活かして日々、尊い命に寄り添っていくことになります。最初はどのようなケアや観察であれ、それ自体に全神経を集中させなければならないでしょうが、やがて少し余裕が出てきたら、ひとつ一つの知識や技術について、疑問を投げかけながら実践をしてほしいと思っています。皆さんは、卒業研究を通して実感したと思いますが、疑問を持ち、解決していくプロセスがやがて自分自身の能力開発と看護の発展につながっていくのです。10年後、20年後にどのような花を看護の世界で咲かせてくださるか、私はたいへん楽しみです。そして本格的に研究を学びたい、もっと高い専門性を身につけたいと考えるようになりましたら、ぜひ本学大学院に帰ってきてください。

   大学院修士課程を修了する皆さん、皆さんは二年間あるいは三年間の学究生活を終え、研究者として求められる基本的な資質を身に付けることができました。研究することの厳しさ、苦しさを味わい、悩むことも多かったと思いますが、同時に研究の面白さや発見の喜びもあったのではないかと思います。ほとんどの皆さんは再び臨床の場に戻りますが、修士の学位を有した看護師として、相応の力を発揮してくださることを期待しております。

   先週行なわれた修士論文発表会では、皆さんの研究成果が立派に報告されました。丁寧なインタビューに基づく質的研究、多変量解析を用いた量的研究のいずれもが看護実践の改善に示唆を与えるものでした。今後は研究成果を学会で発表し、論文として公表するという課題も残っております。臨床に身をおきつつ、その社会的責任を果たしていくことは困難も多いと思いますが、時には再度、先生方の助言も得ながら、最後までやり遂げてください。そして、近い将来、博士課程にチャレンジする日があることを期待しています。

   卒業生、修了生の皆さん、皆さんは日本赤十字九州国際看護大学の誇りであり、未来への希望でもあります。保健師、助産師、看護師という職業は、人道の精神の実現者でもあり、世界中どこでも必要とされる専門職です。その自信と誇りを胸に、この学び舎を飛び立ち、自由に大きく羽ばたき、豊かで幸せな人生を送ってくださることを強く願っております。

   最後に、本日、ご臨席いただきました皆様方のご健勝とご発展を祈念いたしますとともに、学生たちに多くのご指導を頂きました施設の指導者・管理者の皆様、学生たちの学習や生活を支えてくださった地域の皆様に心からの感謝を申し上げまして、私の式辞といたします。

平成29年3月7日

日本赤十字九州国際看護大学
学長  田村 やよひ