平成28年度入学式 学長式辞

   満開の桜のもと、本日晴れて入学式を迎えられた看護学部生百十名、大学院看護学研究科看護学専攻修士課程学生十名、共同看護学専攻博士課程二名の皆様、ご入学、誠におめでとうございます。
   本学教職員、在学生を代表して、皆さんに心からのお祝いと歓迎の言葉を贈ります。

   保護者の皆様方にも、心からのお祝いを申し上げます。看護職を目指すという入学生の夢の実現に向けて、厳しい受験勉強を支え、励ましていらっしゃったことと思います。本日の入学のお喜びはひとしおかと存じます。まことにおめでとうございます。また、大学院生にとりましては職場の上司、同僚のご協力や理解があっての入学に至った方も多いことと思います。関係の皆様方にもお祝いと感謝を申し上げます。  

   本日は、福岡県副知事大曲明恵様をはじめ大勢のご来賓の方々にもご臨席いただいておりますこと深くお礼を申し上げます。
   日本赤十字九州国際看護大学は学校法人日本赤十字学園が有する六つの大学の一つとして、二十一世紀の始まりとともに開学しました。今年で一六年目を迎えております。グローバル社会の進展とともに、いまでこそ「国際」というキーワードがつけられた大学は多くなっておりますが、赤十字の大学では本学のみであり、広く世界に羽ばたいて看護活動を展開できる人材の育成を早い時期から目指してまいりました。

   今日、世界では人々の健康や安全を脅かす様々な問題が起きています。経済格差や差別に起因した大規模なテロや紛争、そして六千万人にも上る難民、地球温暖化に起因する台風やハリケーンの巨大化と、大規模災害、エボラ出血熱などの新興感染症の流行など挙げればきりがありません。わが国でも、五年前の東日本大震災と原発事故により、いまだに17万人もの方々が避難生活を余儀なくされています。また、医療の発展と生活水準の向上により、我が国は世界のどの国よりも長い平均寿命を手に入れましたが、それゆえに生活習慣に起因する癌、心臓病、糖尿病などで苦しんでいる人々は増加の一途をたどっています。後期高齢者の増加は認知症患者とその予備軍の著しい増加をもたらしています。

   赤十字の基本原則である「人道」とは、このように命を脅かされ苦しんでいる人、不安や恐怖に怯えている人たちの尊厳を守り、命を支え、安らぎと安寧を与える働きかけであると考えます。これは、まさに看護の精神そのものでもあり、皆さんが本学で学ぶことは二重に意義深いことと言えます。

   昨年は、我が国に「看護婦規則」という法制度が制定されてちょうど百年、第二次世界大戦終結七十年という節目の年でした。八月には、従軍看護婦として戦場で救護にあたった赤十字の看護師たちの生々しい経験が語られ、ドラマも放送されました。皆さんの中にはそれらを視聴した方も多いと思います。まだ看護教育が不十分な中でも、人道精神に裏付けられた看護を懸命に実践している姿は多くの人々に感動を与えたに違いありません。しかし、赤十字も看護も、世界の平和と人類の福祉を希求する団体であり、職種です。そのことをしっかりと胸に刻んでいただきたいと思います。そして、看護の対象者一人ひとり、あるいはその家族や地域の状況にあった、豊かな生活の質の確保にむけた看護を実践できる、そのような看護職を私たちは育てたいと願っていますので、皆さんも勉学に精進してください。

   本学では今年から、大学院に共同看護学専攻博士課程を四つの赤十字看護大学と連携して開設いたしました。これにより高等教育機関としての体制が整備され、看護学の発展を支える学術的研究がさらに進むと期待しております。学部生、修士課程の院生にとっては、将来の学習機会が拡がったことをふまえて、自身の将来像を描いてほしいと思いますし、博士課程最初の入学者のお二人には、何としても三年間で博士論文を書き上げ、看護の未来を切り拓く人材に成長していただきたいと強く願っています。

   学部生の皆さんに特にお願いしたいことがあります。それは、大学での学習は高校までのように、先生方に教えられたことを暗記するというものではありません。自ら疑問を発し、それを解決するために様々な情報を手に入れ、それを評価しながら判断して答えを導くのです。看護は人間科学でもありますから答えが一つだけ、ということはありません。大学では「学習の仕方を学ぶ」そう心に誓ってほしいのです。それができれば、これからも変化し発展するであろう知識や技術に対応できる力を手に入れることができるのです。皆さんの柔らかで吸収力のある、そして創造的な頭脳をいかんなく発揮して、自らを鍛えてくれることを期待しています。

   もうひとつ心掛けていただきたいこと、それは豊かな感性を磨き、教養を深めることです。本学ではリベラルアーツの教育にも力を入れていますが、それは皆さんが将来、さまざまな歴史的・文化的・社会的背景をもって生きている人々の看護にあたって、その人々の経験や気持ちに寄り添うためには、豊かな感性や自分の経験を超えたイマジネーションを広げることが必要になります。本学で提供できる教育は、その一部、取っ掛かりでしかありません。沢山の文学や芸術に触れ、友人たちと討議するなどして、多様な価値観を知り、自分自身を磨いてください。

   最後に、この宗像市アスティのキャンパスは、四季折々の変化が楽しめる美しい地域です。このキャンパスで、私たち教職員はともに皆さんを、厳しくも大切に育てていきたいと思っています。明日から一緒に、がんばりましょう!
   皆さんの充実した学生生活と、本日ご列席の皆様方のご健勝とご多幸を願って、私の式辞と致します。

平成28年4月6日

日本赤十字九州国際看護大学
学長  田村 やよひ