The man who swam into history : the (mostly) true story of my Jewish family


著者情報等. Robert A. Rosenstone, University of Texas Press, 2005.
寄稿者名2年生 山崎 衣織(2011年4月)
本学所蔵http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=35662
私が今回紹介する本は The Man Who Swam into History という本です。この本はユダヤ人である著者、Robert A. Rosentone氏のFamily Storyです。著者が過去の新聞、手紙、日記などを調べて拾い上げた事実、親族あれこれの人の話から聞き知ったエピソードをもとに組み立てた家族3代の物語からは、人々に海を越えさせ大陸を横断させることになった世界の歴史のうねりも見えてきます。

 本書は、19世紀末頃にロシアから川を泳いでルーマニアまで渡ってきたと言われている無口な著者の祖父の話から始まります。家族はさらに、ルーマニアからカナダへ渡り、父親のひょんな思い付きから、アメリカのカリフォルニアへと移動します。著者自身は少年の頃に移り住んだカリフォルニアに今も住み、歴史学の教授を務めています。

 本書のIntroduction部分に「(私の関心は) how people make choices that change their lives and then have to live with the consequences of those choices(である)」.」という一文があります。本書には11の章があり、その一つに一人の著者の親族にあたる人々の人生が描かれています。それぞれの人生の中にそれぞれのStruggle(苦難)も、Triumph(勝利)も、Victimization(不当な仕打ちを受けること)もあり、その中で人は、悩んだり喜んだり憤慨したりしながら、何かを選び取り、その結果を引き受けつつ生きていくのです。著者の筆は、その一人一人をいきいきと描き出し、まるで自分が直接その人を見たような気にさせられます。

 政府によって都合の良いように利用され、迫害を受けながら、たくさんの国を転々とするJewish の人々と、島国日本に住む私たちとは、生活環境も歴史も文化も全く違うように思われますが、川を渡ってきた著者の祖父の性格が幾分自分の祖父に似ていたり、あるいは、ギャンブルで儲けていた父親が歳をとった姿は親戚の叔母さんに似ていると思ったりすることがありました。ユダヤ人と日本人、人種やそれぞれの生活環境や時代は違っても、人の愛情、希望、欲や見栄など、人間の本質的なところは共通しているのでしょう。

 本書を私は、英語Ⅱのクラスの教材として読んだのですが、日本人学生向けに書かれた教材とは異なり、歴史学者である著者による英文は読み応えがあり、読み終わったときには英語の力が伸びたと思いました。それぞれの登場人物によって話が区切られているので、英語の苦手な人は、各章の扉にある写真を見て面白そうと思った章から読むことをお勧めします。是非一度、手に取ってみてください。

【2年生 山崎 衣織】


(付記:因京子)

 著者Robert A. Rosentone氏は、私が九州大学の1年生だったときにフルブライト財団の招きで1年間来日され、アメリカ文化全般、カウンターカルチャーと呼ばれる新しい動きなどについて講じてくださった。それ以来のお付き合いで、私にとっては a life-time senseiである。2011年3月、山崎衣織さんを含む10名の学生と2名の教員とでロサンジェルスを訪ねて著者夫妻と歓談し、著者が長年勤務するCalifornia Institute of Technologyの学内も見せてもらった。

 Rosenstone氏が小説に手を染めたのは比較的最近であるが、その作品は高い評価を受けており、英文は、平易でありながら格調と色彩を備えている。著者は、その博士論文が美男として名高いウォーレン・ベィティ主演の『レッズ』の原作となるなど、映画界との関係が深く、フィクションやフィルムと歴史との関係についての研究が広く知られている。また、ハーン、モースなど、異文化に接しその中に暮らした人々についての研究も多い。

 The Man Who Swam into History および、最近の著作である Red Star Crescent Moon は、どちらも、読者を厭きさせないテンポのいい語りで、人間の普遍性と文化の多様性、多様な人々が出逢って共に生きていくこの世の様を読者に体感させる。どちらも本学図書館に複数冊揃っているので、是非、読んでほしい。