映画『胎動期:私たちは天使じゃない』


著者情報等 十津川光子原作,三輪彰監督,新東宝,1961.※原作も図書館に所蔵しています
寄稿者名1年生 山本誠也(2014年6月)
本学所蔵なし
 私が紹介したいこの映画は、1年生のライティングのコースで鑑賞したものです。ディズニーのヒット作のような意味で面白いと言える映画ではないのですが、看護学生として、また、一人の人間として、大切なことに気付かせてくれる作品であり、是非他の学年の学生や一般の皆さんにも見てもらいたいと思います。
 この映画の伝えようとしていることは、「面倒を避けて自己防衛をしているばかりではなく、自分が正しいと思うことをはっきりと言って状況を切り拓いていくことが大切だ」ということだと私は思いました。今これを読んでいるあなたに質問しますが、あなたは目上の人に対しても自分の言いたいことをはっきりと言えますか。…「はい」と答えた人、そのままでいてください。「はい」と答えられなかった人、何故なのか考えてみてください。おそらく「はい」とは言えなかった人がたくさんいるでしょう。自分の立場や印象が悪くなるのではないかと気にするのが普通かもしれません。しかし、この映画には、50年前の看護学校で、目上の人に対してものを言い行動しようとした勇気ある学生たちの姿が描かれています。
 主人公を含めた六人の看護学生が一室を共にしていた寮で、ある日一人の学生の日記帳が紛失し、同室の別の学生の机の中にあるのが見つかるという事件が起こりました。その学生に対して他の学生は不信感を持ち、関係がぎくしゃくしてしまったのですが、結局、日記を盗み読みしたのは生徒たちを厳しく監督しようとする教員だったことが判明します。学生たちは団結して、行き過ぎた監督をしないことなど、教員側に自分たちの要求を認めてもらおうとします。こうした状況の中、学生に理解を示す教員がいる一方、学生の中にも教員に味方して学生たちの動きを密告する者もあって、とうとう、ある場面では、学生同士が激しい取っ組み合いを始めてしまいます。実は私は、この場面が最も印象に残りました。いやもう、すごい取っ組み合いでした!
 正直に言うと、私は昔の白黒映画などに興味はありませんでした。映画が始まってもしばらくは、「どうせつまらない映画だろう」という気持ちで見ていたのですが、見ているうちに、どんどん引き込まれてしまい、上に述べた取っ組み合いの場面では、ここまで激しいぶつかり合いをするなんて、この人たちはどういう気持ちだったのだろう、ここまでこの人たちを駆り立てたのは何だったのだろうと、瞬きもせずに見てしまいました。ほかにも私と同じような学生がたくさんいたと思います。

 映画の最後がどうなったのかここには書きません。この映画は、見ているうちに面白くなるだけでなく、見終わった後も、あれこれ考えさせられ、面白さが募ってくるのです。あなたもぜひ、『私たちは天使じゃない』というこの映画をご覧になってください。


1年生 須嵜大智

 私は、看護の歴史など知らなかったし知りたいと思ったこともなかったのだが、看護師という職業を現在のように社会的に認められるものにするために、どれだけの人が苦労し、どれだけ頑張ってきたかを、この映画を見て初めて知った。今のままでは、自分は看護について知らないことが多すぎると思った。
 
1年生 高口暢大

 私は、看護教育は昔から現在のような教育システムだったと思っていましたが、当時の看護学生の姿は軍隊生活そのもので、今の状況からは想像することも難しいほどです。私たちは恵まれている、だからこそ、よりよい看護を提供できるようになることが私たち後進の務めだと思いました。
 
1年生 岡田圭央

 この映画から、人間の価値判断を変えるには、相当な努力が必要であることがわかる。正しいことであっても、いきなり新しいことを習慣化させようとすれば、逆に状態を悪化させてしまうかもしれない。この映画は、正しい目的を実現するためには、強引に推し進めるだけでなく、粘り強く努力しなければならないことを教えてくれる。
 
1年生 平峰沙弥

 看護学生がこのような環境に身を置かざるを得なかったのは、教員たちが悪かったのだろうか。体制が悪かったのだろうか。当時は、戦後間もない時代で、看護婦という仕事に対する正しい概念もなかった。憲法も作られたばかりで、基本的人権の尊重という概念が広く理解されていたわけではない。状況の改善は、決して一足飛びに起こったのではない。では、現在では、問題はすべて解決されているのだろうか。私たちに、果たすべき責任はないのだろうか。 

<担当者からも一言>
 
ライティングリテラシー担当教員 因京子・力武由美

 この映画は、山本誠也さんの紹介にもある通り、娯楽を提供するものではありませんが、半世紀ほど前に看護教育が置かれていた状況の一端を描いていて、私たちが今の自分を取り巻く状況を認識する上で有用な視点を与えてくれます。製作者の価値観が色濃く投影されていますし、映画特有の誇張も見られ、描かれていることの全部が真実であるとは思われませんが、当時の看護教育、看護・医療、また、日本全体の社会状況を想像させてくれるものです。
 映画の中には、今の基準から見たら明らかに間違っていると思われることが多々あります。しかし、上に紹介した山本さん以下数名の学生たちはもちろん、ほかにも多くの学生たちが、そうした誤りをただ指摘して批判するのではなく、それを生み出していた複合的な状況を理解しようと試み、さらに、今日の自分たちへの示唆を読み取ろうとしていました。よくないことであると認識しながらも、その時代の当事者の気持ちに共感しようとしてみる態度は、さすがに看護師を志す学生らしいと、頼もしく思われました。
 この映画は、DVDなどの形で市販されてはいません。テレビで放映されたものが図書館員の方々の手によって録画され、それを1年生全員で見て、その後そのディスクは図書館に保管しています。図書館のカウンターで申し出てくだされば貸し出しますから、どうか、一人で、あるいは、お友達と誘い合わせて鑑賞し、看護の来し方と行く末について考えてみてください。