映画『アイリス』


著者情報等リチャード・エア監督・脚本、2001
寄稿者名2年生 神岡 恵、水口 佳奈子、吉田 美穂(2011年1月)
本学所蔵なし
『アイリス』という映画を紹介します。この映画はIris Murdoch の夫John Bayleyが書いた『アイリスとの別れ』に基づいた作品で、事実をかなり忠実に反映していると言われています。アイリスはDameという名誉ある称号を授与された世界的に高名な英国の作家・哲学者で、夫ジョンは大学教授でした。この作品は、2002年のアカデミー賞以下主だった賞をいくつも受賞しています。
 ジョンは大学時代にアイリスと恋に落ちます。若き日のアイリスは、抜群の才気に溢れ、奔放で、光り輝く存在でした。恋のライバルも数々いましたが、ジョンは選ばれて彼女の人生の伴侶となります。やがて二人は年をとり、アイリスはアルツハイマー病を患います。この病は、幻覚や記憶障害といった症状を引き起こし、徐々に、普通に会話することすら難しくなっていきます。ジョンは必死にアイリスを看病しますが、いわゆる「老老介護」ですから、うまくいかないことも多々あります。以前のきらめきを失っていくアイリスを辛抱強く支えながら、しかし一方で、アイリスの心には結婚前に関係のあった他の男性の姿があるのではないかと激しい苛立ちに駆られることもあるのでした。病は二人で築いてきた日々の記憶すら消してしまうのでしょうか・・・・
 この映画には、若いアイリスとジョンが自転車に乗って坂を下るシーンが何度も出てきます。あらん限りの速さで疾走するアイリスを、ジョンが一所懸命追っていくのです。なぜこのシーンがこんなに繰り返されるのだろう・・・と不思議でしたが、後になって気づきました。あれは、ジョンとアイリスの人生そのものだったのです。ジョンは、若き日に抱いた気持を貫き、アイリスに寄り添い続けました。ずーっと、ひたすらに、付いていったのです。では、アイリスはどうだったのだろう・・?きっとアイリスも、誠実なジョンを伴侶と決めた気持を、最期の日まで、心に抱いていたに違いありません。映画のラストシーンは、そう、伝えていました。
 私たちの身の回りにもアルツハイマー病を患っている人がいます。その人が身近だった者のこともいつかいつか忘れてしまうのではないかと思うと、とても怖く、さびしくなります。しかし、この映画を見て、アルツハイマー病は言葉や日々の生活動作のやり方などのさまざまな記憶を消してしまうけれども、人の魂に刻まれた感情や思いを消すことはできないと感じ、少し安心しました。アルツハイマー病の人は何もわかっていないように見えるかもしれないけれども、こちらの一所懸命の気持は、きっとその魂に伝わるのだと思います。この映画を鑑賞して、家族の一員として、また、看護職者として、アルツハイマー病を患っている人と向かい合う勇気と希望を得ました。