『君の膵臓をたべたい』


著者情報等佐野よる著、双葉社、2015
寄稿者名1年生 松村 香奈(2016年2月)
本学所蔵なし
 2015年に双葉社から出た、住野よる作の『君の膵臓をたべたい』を紹介します。
 このタイトルから、皆さんはどんなことを想像しますか?私は授業で習った膵臓の機能を思い出し、頭をひねってみたのですが、カニバリズム的な事柄しか想像しかできませんでした。読んでみると、私の想像を裏切って、この作品は青春恋愛小説でした。
 主人公は一人も友達がいない男の子で、彼の視点から物語が展開していきます。彼はある日、クラスの人気者でいつも明るい女の子の秘密の日記帳を拾い、そこから、交わるはずのなかった二人の間に交流が始まり、やがて恋愛へと発展していきます。タイトルとなっているフレーズは、実は6ページに登場します。女の子が主人公に、突然そう言うのです。そこで一応の意味がわかるのですが、最後まで読み進むと、もっと深い別の意味も込められていることが明らかになり、「タイトルはこれしかない!」と感じました。
 私が特に面白いと思った点は2つあります。1つは、二人が相手に、面と向かって、あるいは心の中で、呼びかける名前が、いろいろに変化することです。もちろんこれは、二人の関係性や心情の変化を反映しています。恋する者の気持ちの揺れが、若い二人の心の熱が、呼び名から伝わってきます。恋愛小説の醍醐味!
 2つ目は主人公の名前です。主人公の名前は「志賀春樹」というのです。読書好きならピンと来たと思いますが、小説の神様「志賀直哉」と現代を代表する「村上春樹」を合わせた名です。この作品は、志賀直哉の代表作の一つ、「城の崎にて」を連想させるところがあります。「城の崎にて」の主人公の死生観は、この作品中の女の子のそれと通じるところがあります。生と死を、私たちは非常に違うもののように思いがちだけれども、本当にそうなのだろうか…という疑問が、この作品を読み、「城の崎にて」を思い出すうちに、心に浮かびました。
 面白い点はいろいろ他にもあるのですが、やはり、この作品から私が受けた最大の衝撃は、「君の膵臓をたべたい」の意味が読み始めと終わりとで違うという点です。「君の膵臓をたべたい」という言葉の真実とは何か、皆さんも、知りたくなったでしょう?ぜひ読んでみてください。