【1年生の岩波新書感想文】『心の病理を考える』


著者情報等木村敏著、岩波書店、1994.
寄稿者名1年生 織田 茜(2012年7月)
本学所蔵なし
私は『心の病理を考える』という新書を読んで、興味をもったものが二つある。第一に、「精神病理学」というものに非常に興味をもった。精神病理学は医学の一分野であり、精神科の患者という病人の治療を通してその中で成立するものであるので、将来看護職者になりたいと考えている私にとって、精神病理学を通して患者さんをよりよく知り、よりよく理解し、よりよく治療していきたいという気持ちが強くなった。
 この精神病理学における基本概念は、「心を病むことはどういうことか」というものである。その中で、心の正常と異常をどう区別するのかということが非常に重要である。ここで私が興味をもったのは、心と体における正常と異常の区別である。体の異常であれば、検査結果を数値で表したり、レントゲンや心電図のように視覚的に一目で見て正常と異常との違いを判断することができる。つまり、一般の身体医学では正常と異常は客観的に区別することができるのである。それに対して、心の異常はどうだろうか。精神医学では、精神活動を数字に置き換えるなどということができない。また、気分の変化は身体医学の異常値のように客観的な判断基準になりにくく、正常値もその人その人で違う。なぜなら、普段から物静かで口数の少ない人もいればそれとは反対に、陽気で活動的な人もいるからである。看護職者として患者さんの心をしっかりとサポートしていくためには、おおよその患者さんのこころの正常値を知ることや、常に患者さんの気分状態がどの程度普段と違っているのかを、見極めることが必要であると私は考えた。しかし、病気になってしまったら、その人の体だけでなく気づかないうちに心までもが病んでしまったり、普段の心の正常値までもが低下してしまうことがあると考えさせられた。このようなことを念頭に入れながら、患者さんの病気の治療の手助けだけでなく心もケアし、安心させていきたいと強く思った。
 第二に、「妄想」というものに興味をもった。妄想は、その人が現実を生きるために応急的に採用されたものであり、それを理屈で説得しようとしても無駄であるし、薬でむやみに妄想だけを取り除くと生きられなくなり自殺してしまうこともある、という話には目を開かされた。おそらく精神病でない人であっても、その人格は生きる術として身につけたものだとしたら他人が簡単に変えることができないし、変えてもよいものではないと思った。精神科医のできることが、その人が別の道を生きる術を見つけてもらう手伝いをすることだとしたら、それがどんなに難しいものなのだろうと思わされた。
 本書を読んで、精神病理学の概念の奥深さを理解することができた。私は、精神病理学だけでなく、本書に何度か登場してきた現象学や実在の問題などの概念の一つ一つにも医学と関連させていきながら学んでいき、今後に生かしていきたいと考えている。




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      喜多学長が、新入生に課題として出された「岩波新書の感想文」を
                シリーズで掲載しています。
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