『MOMENT』


著者情報等本多孝好著、集英社、2005.
寄稿者名1年生 竹内 奏未(2014年2月)
本学所蔵なし
 「死ぬ前にひとつだけ願いが叶うとしたら…私はいったい何を願うだろう…」
 私が『MOMENT』に出会ったのは高校生の時です。本書は、看護系の大学を受験する予定だった私のモチベーションを大いに上げてくれました。志を同じくする本学の学生にもきっとそう感じてくれる人がたくさんいるのではないかと思い、本書を紹介することにしました。
 本書は、4つのストーリーの連作となっています。主人公である「神田」は、病院で掃除夫のバイトをしている大学生で、どこにでもいるような若者なのですが、一人の終末期にある患者の願いを叶えたことをきっかけに、彼のもとには患者たちの最後の願いが次々に寄せられるようになります。4つのストーリーはどれも簡単には片づけられない深い問題を含んでいますが、看護師や医師が活躍する場面は少なく、読んでいると、いつの間にか自分が神田に重なっていき、神田という一アルバイト学生の立場から患者の話を聞いているような気になってきます。しかし、あらためて看護師を目指す学生の立場に立ち返ってみると、看護師となったとき、こんなに自然に患者の心に寄り添うことが自分にはできるだろうかと考えさせられました。
 中でも強く印象に残っているのは、本の表題ともなっている、最終章の「MOMENT」です。生と死について深く考えさせられました。最終章で中心人物となる人は、実は最初の章にもちらりと登場していて、神田に、「死ぬまさにその瞬間、自分は何を思い浮かべると思う?」と尋ねます。このとき、この問いに対して返せる言葉が私には見つかりませんでした。しかし、最終章で「生きていることと、死んでいくことは違う。表面上は同じことであっても、それは決定的に違う。そう思わないか?」という一言によって、心の中に引っかかっていたものがすっと取れるのを感じました。生も死も、捉え方は人によって違います。これは当たり前のことですが、それだからこそ、私たちは、自分の生について死について、それぞれ考えていかなければならないのではないでしょうか。死ぬ前に私が何を願うかは、それまでの私が生きていく道次第であると、今、私はそう思っています。
 普段考えていなかった大事なことを考えるきっかけをこの本は与えてくれました。重々しい話ではないかと誤解させてしまったかもしれませんが、実は、この本は読後にめったに味わえないほどの爽快感、ほっこりする気持に浸らせてくれる本でもあります。
 この本を読んで神田や他の登場人物が気に入ったら、姉妹編の『WILL』『MEMORY』もぜひ読んでください。