『魔女の1ダース:正義と常識に冷や水を浴びせる13章』
著者情報等 | 米原万里著、新潮社、2000. |
寄稿者名 | 1年生 田中 美帆(2011年1月) |
本学所蔵 | http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=31896 |
題名ともなっている「魔女の1ダース」は、昔、ロシアにはいたとされる魔女の間では1ダースは12ではなく13だったのだというエピソードを示しています。いくらなんでも、このような基本的なことが食い違うなどということがあるのだろうかと驚かされますが、この例に象徴されるように、実は、私たちが「常識」と思い込んでいることは、それほど普遍的ではなく、食い違いは、私たちと魔女の間だけでなく、国と国、日本の中の集団と集団など、私達の周りにも多く存在しているのです。
本書は、ベルリンの朝鮮人や東京の福島県民など、さまざまなエピソードを通して、「所変われば品変わる」「物事に絶対は無い」ということ、また、人がいかに自分の今までの経験から得た知識や習慣をこれから起きる様々な物事に対して固定観念として当てはめようするものであるかを、まざまざと描きだしています。私たちは、所が変われば様々なことが同じでないということぐらい分かっていると思っていますが、実際に、想像もしたことがないような言動に遭遇したら、つい自分の固定観念をあてはめて判断してしまうのではないかと考えさせられました。
私が本書から教えられた最も大きなことは、「異端」の持つ意義です。筆者は「異端は、自己完結しているかのように見える世界に風穴をあけてくれる」と言っています。異端なもの、多数派とは違う考え方に対して、私たちは違和感を覚え、排除しがちです。しかし、異端というものは、今まで自分の見えなかった世界を感じさせてくれる重要なものであり、多くの人が違和感を覚えるようなものであっても、多様なものが存在だけはできる余地を持つ世の中でなければならないのだと、本書を読み進めていくにつれ分かってきました。
本書は、様々な文化、言語、共通価値について考えさせてくれ、自分の常識とは異なる常識の不思議さや奥深さを学ばせてくれました。また、ユーモアとジョークがちりばめられており、本を読むことが苦手な私でも最後まで読まずにはいられませんでした。本書は、冷や水を浴びてから読んだほうがいいのかもしれないぐらい皮肉の利いた本ですが、読まないのはもったいない本です。