『裁判百年史ものがたり』


著者情報等 夏樹静子著,文藝春秋,2010.
寄稿者名教授 柳井 圭子(2014年8月)
本学所蔵なし
  皆さんは、裁判は自分と無縁なものだと思っていませんか?あるいは、興味はあるけど言葉遣いなど分かり難い、結論が分かれば良いのだと思っていませんか?ですが、あなたも裁判員として裁判に関わることになるかもしれません。あるいは・・・。さて、今回ご紹介する本は、その「裁判」についての「ものがたり」です。著者は、日本の女性推理作家で、著作の多くがTVや映画にもなっています。その作家の目を通して、明治から平成にわたる主要な事件を経時的に取り上げています。12章からなり12の事件を題材にしています。どれもが有名でその後の裁判のあり方に影響を与えたものです。もちろん、本書は裁判の解説本ではありません。どの章も、事件の経緯や状況を簡潔に分かりやすく、そして「裁判官」、「当事者・関係者」を臨場感たっぷりに描いています。推理作家としての目とその語り口に引き込まれてしまいます。そして淡々とした文章の中に、筆者の意図を見出したとき、その仕掛けと筆力に感嘆し、極上のミステリーを読み終えた気分になってしまうことでしょう。1編20頁ほどです。法律に余り興味が無い人でも踏みとどまって読み進めることができます。裁判史として、当時の裁判事情をしることだけでなく、「暴力と健康」という視点でみることができます。第9回「悲しみの尊属殺人」は、小児虐待問題です、なぜ早く周りが気づいてあげられなかったのか、今にも通じる事件です。第10回「永山則夫、19歳の罪」は、皆さんと同じ年頃の青年です。死刑適用基準事件とされるこの事件は、社会環境が人に及ぼす影響の大きさから対象を全人的な理解するという意味を思料させてくれます。また犯罪被害者に対する理不尽な被害を描いた最終章も必読です。夏休み、フィクションのミステリーもよいですが、ノンフィクションの本書は、それ以上の「寒さ」を与えてくれるでしょう。そして、今の日本、法の番人である司法・裁判所の役割を考えてみませんか。
 
《併読》ナイチンゲール伝 図説看護覚え書とともに:茨木保著
もおすすめです。本書はマンガです。すぐ読めます。とにかく
一見(読)し、もう一度「看護覚え書き」を読んでみると新たな
発見があるかもしれませんよ。