『自然界における左と右 』


著者情報等マーティン・ガードナー著、坪井忠二、小島弘、藤井昭彦共訳、紀伊国屋書店、1992.
寄稿者名講師 入江 寛昭(2009年6月)
本学所蔵http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=24873
本書は我々が日頃、何気なく認識している左右の概念を原子核物理学の問題として読み物風に解き明かした本です。しかし、御安心あれ。本書は難解な数式を使って解説した本では決してありません。高校あるいは大学初級課程程度の物理の知識があれば読むことができるかなと思います。前置きはそれくらいにしてここで一つ皆さんに問題を出しましょう。

 鏡の前に立って自分の姿を映して下さい。鏡に映っている人物は自分ですか?

 大抵の人は次のように答えると思います。「当然、自分が写っているのであるから鏡の中の人物も自分以外の何者でもないでしょう!」と。では、また質問します。

 右手を挙げて下さい。鏡に映っている人物は自分ですか?

 よく見ると鏡に映っている人物は左手を挙げてはいませんか?本人は右手を挙げているのに鏡の中の人物は左手を挙げているということは別人ということではないですか?では、次の問題を出しましょう。

 二つの鏡を接する面が90度の角度になるように合わせてその前に自分の姿を映して下さい。鏡に映っている人物は自分ですか?

 前問の学習効果で鏡に映っている人物は当然別人じゃないのとあなたは答えるでしょう?

 では次に右手を挙げて下さい。鏡に映っている人物は自分ですか?

 よく見ると鏡に映っている人物は今度は左手ではなく右手を挙げてはいませんか?本人は右手を挙げており鏡の中の人物も右手を挙げているということは同一人物ということですね。鏡の置き方を変えただけで鏡の中に写っている人物が別人となったり同一人物となったり・・・。鏡の前に立っている自分はどちらも右手を挙げたのに鏡の中の人物は左手を挙げたり、右手を挙げたり・・・。そもそも左、右とはどの様に定義されるのか?この鏡の問題から本書は核心に入っていきます。そこで自然界における対称、非対称、右利きと左利きという問題を一般読者を対象に解き明かし、左右とはどういう概念であるかという幻想的世界へ我々を案内してくれます。本書にはリベラルアーツとして括られる数学、物理学、科学、生物学のいわゆる自然科学が全て登場しますが、身近な現象を通して自然科学が易しく語られ、読む内にどんどん引き込まれ、目から鱗とは本書を読んだ感想でした。