『終電へ三〇歩』


著者情報等赤川次郎著、中央公論新社、2011.
寄稿者名2年生 鵜池 弘士(2014年3月)
本学所蔵なし
 おすすめしたいのは、赤川次郎の『終電へ三〇歩』です。
 はじめにお断りしておきますが、実は私は自ら本を読むことはほとんどありません。この本を読んだのも、昨年9月のオープンキャンパスのとき、なぜか「ビブリオバトル予選」に出場する羽目になったからでした。ビブリオバトルというのは、数名がそれぞれおすすめの本を紹介し、聴衆の賛同を得た人が勝ちとなるという催しで、その九州ブロック大会に本学代表として出場する学生を決める予選が行われたのです。ではなぜこの本を手に取ったかというと、「タイトルが面白かった」。え、それだけ?はい、それだけ。しかし、これが私のおすすめ図書になりました。
 この本を皆さんにおすすめしたいと思った理由は二つあります。一つは、当然かもしれませんが「内容」、もう一つは「読みやすさ」です。
 先に「読みやすさ」について述べますと、この作品は、展開がとてもスピーディーで、しかも会話文が多く、それがまたとてもリズミカルなのです。先に述べたように、自分から本を読むことは極めて少なく、読書好きとはとても言えない私ですが、この本は一度も休まずに読み切ってしまいました。スナック菓子を食べているときと同様、ページをめくる手が止まりませんでした。
 さて、肝心の「内容」です。ここまで読んで、「読書嫌いのキミにも読みやすいということは、内容はペラペラなのでは?」と疑っている方もあるでしょう。御心配はごもっとも!しかし本書は、ミステリーではありますが、単なる謎解きではなく、人間の姿を実にありありと描いています。登場人物は、リストラにあった係長など私たちの身近にいそうな32人で、その人々が出会い、別れ、すれ違い、その考えが絡み合うことから事件が起こります。時が過ぎ事態が移り変わっていく中で、殺人を犯してしまった人間の「殺人」に対する考え方も変容していきます。多くの事件が起こりますが、どの事件も、コナン君やシャーロック・ホームズを呼んで来なければならないような難解な事件ではありません。しかし、単純な事件だからこそ、私たち人間誰しもが心のどこかに持っているだろう小さな闇を垣間見せてくれ、その「怖さ」が身に迫ります。
 みなさん、少し時間を見つけてぜひこの赤川次郎著『終電へ三〇歩』を手に取り、ミステリーの世界に遊んでみてください。