『科学哲学者 柏木達彦の多忙な夏:科学ってホントはすっごくソフトなんだ、の巻』


著者情報等冨田恭彦著、ナカニシヤ出版、1997.
寄稿者名講師 石田 智恵美(2009年10月)
本学所蔵http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=33982
先日の「本を読む会」で,「数冊の本を持ち歩き,そのときの気分によって開く本を変える」,という話を聞いた。なるほど,よい気分転換になるし,バスや電車を待つ時間も苦にならないだろう。そこで,私が以前読んだ本の中で,①「頭がすっきり」の1冊,②「泣きたいだけ泣ける」1冊を紹介しようと思う。

①「科学哲学者 柏木達彦の多忙な夏」【科学ってホントはすっごくソフトなんだ,の巻】

 著者の富田恭彦氏は,京都大学大学院人間・環境学研究院の教授である。哲学,特に,現代哲学に関する著書が多い。この本は、実は「哲学小説」とでも呼びたい本だ。哲学といえば,難しい内容で何だかよくわからないか,頭の中をかき回されておしまい!という印象が私には強い。しかし,この本は対話形式でわかりやすく,へぇ~と,目からうろこが落ちるような話ばかりである。とはいえ,哲学で使用される単語は多く出現する。例えば,「パラダイム」や「メタファー」「意味基準」など。しかし,一つ一つの言葉の意味はもちろんのこと,その示す概念やその意義が例を挙げて丁寧に説明されているので,納得でき,頭の整理をしてもらった気分になる。特に,フィールドに出た言語学者が未知の言語をどのように理解していくか…W・V・クワインの話は興味深い。また,「同じ事実と言われるものでも,見る側の考えとの関係によって,事実の中身が違ってくるという」という「逃げてきたトラの話」も,なるほどと思わせる。哲学の話と身構えなくてもすんなり読める1冊である。