『沈黙の春』


著者情報等レイチェル・カーソン著、新潮社、1962.
寄稿者名教授 寺門 とも子(2014年9月)
本学所蔵なし
 私がこの本と出会ったのは、新聞の全面広告に、レイチェル・カーソン『沈黙の春(Silent Spring)』が紹介されていたことがきっかけでした。新潮文庫の本を手にして中を読み進むうちに、「あの白い粉だ」と私が小学生だった時の光景が鮮明に思い浮かびました。それは、私が小学3年生の時です。私たちは板張りの校舎の廊下に並ばされ、女性の保健の先生が生徒たちの頭(髪)を一人ひとりチェックしていきました。2~3人の子どもが選び出され、その子たちの頭(髪)にその「白い粉」をふりかけている―髪につくシラミをチェックしていたのです。そしてその白い粉こそがレイチェル・カーソンがこの本の中で書いている、DDT(Dichloro-diphenyl-trichloroethane(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)だったのです。
 
 かつて目をたのしませた道ばたの草木は、茶色に枯れはて、まるで火をつけて焼きはらったかのようだ。ここをおとずれる生き物の姿もなく、沈黙が支配するだけ、小川からも、生命という生命の火は消えた。いまは、釣りに来る人もいない。魚はみんな死んだのだ。ひさしのといの中や屋根板のすき間から、白い細かい粒がのぞいていた。何週間前のことだったか、その白い粉が雪のように、屋根や庭や野原や小川に降りそそいだ。病める世界-新しい生命の誕生をつげる声ももはやきかれない。でも、魔法にかけられたのでも、敵におそわれたわけでもない。すべては、人間がみずからまねいた禍だった。
 
 最初の章に出てくる一節です。
 私は、第2次世界大戦後日本が連合軍の占領下におかれていた7年の間に生まれ、今60代ですが、あの時代にさまざまな害虫対策に劇的に効果があるともてはやされ、どこでも手に入れて使えた化学薬品(農薬や殺虫剤など)の乱用によってどんなことが起こってくるのか、考えさせられます。現代社会でも人間の便利さが追求され、私たちの周りにはいろいろな化学薬品が日常の中にあふれています。これらが数十年後の「沈黙の春」につながるかもしれないと、私たち人間に警鐘をならす衝撃的な内容の一冊です。人々の健康に携わる者として一読してほしい本です。ぜひ手にしてみて下さい。