『大森文子が見聞した看護の歴史』


著者情報等大森文子著、日本看護協会出版会、2003.
寄稿者名教授 宮地 文子(2008年10月)
本学所蔵http://opac.jrckicn.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=19118
学術誌は別ですが、どの看護雑誌にも看護の現場や実践報告が載っていて、私の楽しみの一つはそれを手当たりしだい読むことです。看護の最先端の現場で未だ経験しなかった課題に挑んでいる仲間の悩みや思いに共感したり、豊かな発想に驚かされたりすることが多くて楽しいのです。それらは授業や研究をすすめる上でかけがえのない刺激とエネルギー源になっています。

 ですから、これまでに看護職が書いた手記をたくさん読みました。最近読んだ手記の1冊に宮本ふみ著「無名の語りー保健師が家族に出会う12の物語―」(医学書院2006年)があります。アルコール依存や難病など複雑な健康問題を抱え、それらが子どもの教育や家庭経済などと不可避に関連している複合的問題ケースに関わった保健師の奮闘記です。著者には保健師の実践に関する多くの論文やテキストもありますが、なかでも本書では著者を突き動かした熱い思いとともに、保健師が一つひとつの支援を丁寧に、確実に、粘り強く積み重ねて地域のセイフテイ・ネット構築に向かう具体的な考え方と方法が、とてもよく伝えられていると思います。

 たくさんの看護実践録を読むと、おのずと看護の歴史に辿りつきます。金子光著「初期の看護行政―看護の灯たかくかかげて」(日本看護協会出版会1992年)、大森文子著「大森文子が見聞した看護の歴史」(日本看護協会出版会2003年)の2冊は、私の恩師であり日本看護協会長を務められたお二人が、多くの看護職とともに日本の看護教育研究、看護業務、看護行政の発展に関わった実践録でもあります。今日の看護の課題の歴史的位置づけや今後の方向性を考えるとき、折に触れて読み返すことの多い本です。この2冊は、いろいろな看護職の手記と重ね合わせて楽しむこともできます。学生の皆さんにも、いつの日か、きっと手にする時が訪れることでしょう。

 一冊の本は、一冊に留まることなく、幾つかの手記や著書に繋へて楽しむことができます。