『世界一幸福な国デンマークの暮らし方』


著者情報等千葉忠夫著、PHP研究所、2009.
寄稿者名教授 増成 直美(2012年8月)
本学所蔵なし
本書は、幸福度ランキング世界第1位のデンマークでの暮らし方を、同ランキング43位ないし90位という日本人の視点から覗いてみようというものである。九州とほぼ同じ大きさの国土に約550万人が住む北欧の小さな国、デンマーク。現在は、農業国で、国内でとれる農作物の1/3で全人口が賄えるほどの高い自給率を誇る。200年ほど前に生まれた「アンデルセン童話」には、その時代の社会と、生活している人々の喜怒哀楽、望ましい未来社会を実現するための願望が描かれている。そして、その望ましい未来社会が、アンデルセンの童話を愛したデンマークの人々により、現在の世界一幸福な国として形成されている、という。
 アンデルセン43歳のときの作品である「マッチ売りの少女」は、今から160年前の貧しい子供たちがたくさんいたデンマークを描いている。
 同じ類いのものが連帯して異質なものを排除しようとする働き、マイナス思考の連帯感が「いじめ」となるが、そのいじめをなくするために、マイナス思考の連帯感をもたせないように、子どもの頃からの教育をしっかりする。異質な人を排他的に見るのではなく、自分とは異なる個性を尊重しながら、個人と個人のつながり、社会性を教えている「みにくいアヒルの子」。
 自分には得られないものを他人がもっていると、人はみじめでくやしい思いをする。そんな生活を長いことしていると、やっと手に入れたものは手放したくない、いつもそばにおきたいと思うようになる。しかし、社会のルールに反してまで、自分の意思を通すことは許されないことを教える「赤い靴」。
 人生の分岐点で大切にすべきは、自分自身の自己決定にほかならないが、自分のことばかり優先し、自分のおかれている立場などを無視しての自己決定は、利己主義となる。国民はさまざまな生活をする権利があり、どんな生活を選ぶかは国民の自由である。しかし、同時に自由には必ず責任が伴うので、自己責任とは何たるかを自覚しなければならない、と教える「人魚姫」。
 著者は、デンマークと日本のどちらに住みたいかと聞かれたら「デンマーク」と答え、どちらが好きかと聞かれたら「日本」と答えると結んだ。アンデルセン童話を手がかりに、自由、責任、政治、教育、福祉、貧困など現在の日本社会が抱える問題について、身近な視点から再考する機会にしたいと思う。