『世界一幸福な国デンマークの暮らし方』
著者情報等 | 千葉忠夫著、PHP研究所、2009. |
寄稿者名 | 教授 増成 直美(2012年8月) |
本学所蔵 | なし |
アンデルセン43歳のときの作品である「マッチ売りの少女」は、今から160年前の貧しい子供たちがたくさんいたデンマークを描いている。
同じ類いのものが連帯して異質なものを排除しようとする働き、マイナス思考の連帯感が「いじめ」となるが、そのいじめをなくするために、マイナス思考の連帯感をもたせないように、子どもの頃からの教育をしっかりする。異質な人を排他的に見るのではなく、自分とは異なる個性を尊重しながら、個人と個人のつながり、社会性を教えている「みにくいアヒルの子」。
自分には得られないものを他人がもっていると、人はみじめでくやしい思いをする。そんな生活を長いことしていると、やっと手に入れたものは手放したくない、いつもそばにおきたいと思うようになる。しかし、社会のルールに反してまで、自分の意思を通すことは許されないことを教える「赤い靴」。
人生の分岐点で大切にすべきは、自分自身の自己決定にほかならないが、自分のことばかり優先し、自分のおかれている立場などを無視しての自己決定は、利己主義となる。国民はさまざまな生活をする権利があり、どんな生活を選ぶかは国民の自由である。しかし、同時に自由には必ず責任が伴うので、自己責任とは何たるかを自覚しなければならない、と教える「人魚姫」。
著者は、デンマークと日本のどちらに住みたいかと聞かれたら「デンマーク」と答え、どちらが好きかと聞かれたら「日本」と答えると結んだ。アンデルセン童話を手がかりに、自由、責任、政治、教育、福祉、貧困など現在の日本社会が抱える問題について、身近な視点から再考する機会にしたいと思う。