『アフガニスタンに住む彼女からあなたへ ー望まれる国際協力の形ー』


著者情報等 山本敏晴著,白水社,2004.
寄稿者名1年生 今成 祥 (2014年11月)
本学所蔵なし
 山本敏晴著『アフガニスタンに住む彼女からあなたへ―望まれる国際協力の形―』」は、日本医療救援機構(メル)というNGO団体の医師として2002年から2003年までアフガニスタンで医療活動に携わった小児科医が、その体験に基づいて、望まれる国際協力の形とは何かについて考えを述べた本です。写真も多く載せられていて、現地のことを思い浮かべつつ読むことができます。
 私が感銘を受けたことの一つは、文化の違う土地での医療活動には、いかに独特の注意が必要であるかということです。たとえば、現地で病院運営をするには、大抵の場合、村長や有力部族の長など地元の有力者の許可が必要とされるのですが、その許可を出す交換条件として、有力者の推薦する人々、大抵は、有力者の血縁者を、職員として雇用するよう要求されるのだそうです。国際支援団体の給料の方が現地の公務員などよりも良いため、血縁者を雇わせて財力を得て、ますます権力を拡大しようという意図があるのです。その要求にやすやすと従ってしまうと、医療活動という支援が現地の人々の格差の拡大とその固定化につながるかもしれません。医療活動という、どう考えても土地の人々のためになりそうなことが、別の意味で悪影響を及ぼす可能性もあるなどとは、この本を読むまで想像していませんでした。
 では、望まれる国際協力の形とは、どのようなものなのか。それは、「未来に残る支援をすることだ」と、著者は述べます。現地に入り、支援が終わったら帰る、というだけでは、「自分は支援した」という自己満足に過ぎないと著者は言います。支援団体が引き上げた後に現地がどうなるのかを想像していない支援ではだめなのです。支援後も支援によって改善された状態が続かなければ意味がないのです。具体的には、たとえば医療であれば、現地の医療スタッフを教育し支援終了後も現地の人たちだけで活動していける技量を身に付けてもらうことが最も重要だと著者は述べています。
 本書を読んでいくと、「これなら未来に残る支援なんじゃないか」「自分にできる支援とは何だろう」と、あれこれ考えが湧いてくると思います。私は、今年の国際シンポジウムで取り上げた母子健康手帳のことを思い出しました。母子健康手帳の制度があれば、母が子に母子健康手帳のことを伝え、その子が大きくなって自分の子が生まれるときに、また母子健康手帳を貰いに行くというサイクルができます。まさに、「未来に残る支援」の一つではないかと考えました。
 ところで、タイトルにある「アフガニスタンに住む彼女」とは一体誰なのかと、私はずっと興味を持ちつつ読んだのですが、最後までわかりませんでした。山本医師と一緒に活動した現地の女性がたくさん出てくるので、彼女とは特定の一人ではなくて、一緒に尽力してくれた女性たち、またその背後にいるアフガンの女性たちなのかなあと、今は思っています。本を読んで、「アフガニスタンに住む彼女」が誰であるのか、私とは違う考えに至ったら、ぜひ教えてください。
 宗教と医療活動の関係や紛争地での支援に必須の危機管理方法など、国際協力を行う上で大切なことが本書にはたくさん書かれています。もちろん、医療についても詳しく書かれています。日本の医療について考えさせてくれる部分も多々あります。国際協力への入門書として、本書を心からお勧めします。