『そらみみ植物園』


著者情報等西畠清順著、東京書籍、2013.
寄稿者名1年生 梶栗 千裕(2014年1月)
本学所蔵なし
 「プラントハンター」という職業をご存じでしょうか。これは、依頼に応じて国内外から珍しい植物を採集してきて提供するという仕事で、新種や突然変異の起こったものなど、希少な植物を追って世界中を飛び回っています。『そらみみ植物園』の著者、西畠清順さんは、プラントハンターとして、日本全国、世界数十カ国を旅し、数千種類もの植物を収集、生産しています。国内、海外でのプロジェクトなど、年間2000件を超える案件に応えている、「凄腕」のプラントハンターなのです。
 『そらみみ植物園』は、清順さんによる植物エッセイ集で、今までこの方が出会ってきた数万種類の中から選りすぐった植物が紹介されています。ページを繰るたびに姿を現す普段あまり見ることのない植物の面白さには心を奪われてしまいます。また、その植物に寄せる清順さんのコメントが、実に独特なのです。ちょっとマニアックな植物図鑑と思っていただければいいでしょうか。しかし、この本の魅力は、それだけではありません。
 ぜひ一言、言わずにいられないのは、この本の形と色のことです。普通の本とは違って正方形で、表紙は、空色が主調。持つと手にいい具合に収まる大きさで、まるで小さな植物園を抱えているような気がしてきます。読み終わった後もそばに置いて、ときどき遊びに行きたくなります。私は今も、すぐ手に取れる場所に置いています。
 それから、イラストも素晴らしいのです。1つの植物ごとに、見開きの左に清順さんのコメント、右にその植物のイラストが描かれています。それだけならただの植物図鑑と大きな違いはありませんが、植物とともに、必然性がなさそうに思える事物が描きこまれているのです。例えば、車と木。イチローとオリーブ。…ページを開くと、コメントを読む前にイラストが目に飛び込んできます。「えーっ、なんでここに、イチローとオリーブ!?」と、不思議な気持ちに捉えられ、コメントを読まずにはいられなくなる。そうなると、もうあなたは、この本の中に半分以上入り込んでいます。
 この本の帯には、こんな賛辞が載っています。「本書で紹介される植物を眺めていると、なぜか知り合いの姿があれこれ浮かんできます」―『舟を編む』の著者として知られる三浦しをん氏によるものです。この本を読んでいくうちに、私は、植物にもそれぞれ、姿かたちはもちろん、性格、嗜好、生きる環境の違いがあり、個性があるのだと、わかりました。これは人間と同じです。そして、ただ植物としてではなく、生きている仲間と思って見たら、一つ一つの植物が一層面白く、愛しく感じられました。三浦しをん氏もきっと同じ気持ちだったと思います。この本は、そんなことを感じさせてくれる本です。ですから、植物好きの人はもちろん、植物に興味のない人でも楽しめると思います。読む前も楽しく、読んだ後もしみじみと楽しさが続くこの本、ぜひ読んでみてください。