「思考の整理学」


著者情報等外山滋比古著,筑摩書房,1986.
寄稿者名教授 本田 多美枝(2014年7月)
本学所蔵なし
 書店で「東大・京大で一番読まれた本」という帯が目にとまり、思わずこの本を手に取っていました。帯には「もっと若い時に読んでいれば・・・」というコメントもあって、約30年前に書かれたこの本が、どうしてこんなにも長く読み続けられているのか不思議に思い、読み進めていきました。
 すると、ある光景が目に浮かび、思わず苦笑いをしてしまいました。それは、20数年前、優しくて注射が上手な看護師になりたい、などという安易な考えで大学に入学した私たち学生に対して、「あなた方一人ひとりが看護とは何かを探究し、自らが看護学をつくり上げていくのです」とおっしゃった恩師のことばに、目を丸くしている自分たちの姿でした。当時、看護大学は全国に10数校しかなく、大学で看護を学ぶということがどのようなことなのかまったく想像もしていなかった私自身を含む多くの学生にとっては、この恩師の言葉は衝撃でした。大学生活は、受け身でいることを許してくれず、入学間もない頃はとても戸惑ったことを思い出します。学生、特に1年生の中には、今まさにこのような戸惑いの真っただ中にいる人も少なくないかもしれません。
 高校までの学校での教育の中で、時には進学塾で与えられる知識をせっせと詰め込み、ようやく大学にたどり着いた学生たちは、自力で飛ぶ力を持っていないと著者は述べ、彼らを<グライダータイプ>と呼んでいます。中でも、受験術ともいえる方法を最大限駆使せざるを得なかったのであろう一流大学の学生たちは、大学における教育とのギャップを強く感じることになり、その混乱の中でこの本に手を伸ばし、目からウロコの落ちる思いをするのです。東大・京大で圧倒的に支持されてきたのも無理はありません。本書の評判は、学生たちに口コミで広がり、その結果、100万部を突破しているそうです。 
 大学教育において獲得すべき最も重要なものは、個々の具体的知識や技術そのものではなく、自分で物事を発明・発見する能力です。著者はこの能力を、自力で学び進んでいくという意味で<飛行機能力>と表現しています。なるほど!! <飛行機能力>とは、面白い表現で学び方の本質を言い当てているなと納得させられました。本書には、研究テーマの選び方、論文の選び方や読み方、エディターシップ等、大学での学び方についての具体的説明があり、自分の普段の学習姿勢と対比しながら読み進めることができると思います(痛いところをつかれるかも・・・)。
 中でも、私自身はセレンディピティという概念にとても興味を持ちました。この語は、目的としていなかった、副次的に得られる研究成果であると定義されています。わかりやすく言うと、行きがけの駄賃のように生まれる発見・発明のことです。著者は、生活、学習、読書等の中で、できるだけ広い視野と好奇心を持って多彩なものに接していけば、自分の置かれた状況下で何気なく思えるものから新しい発見が得られるかもしれないと述べています。身の回りには無駄になるものは何一つないのです。
 飛行機を自ら操縦するかのように、主体性を持って大学生活を実践するからこそ、未知なる世界が広がっていき、その結果、大学生活を真の意味で楽しむ事ができると言えるでしょう。本書を読めば、東大生たちと同じように目からウロコが落ちる体験をし、真に意味のある大学生活を送る秘訣を体得することになるでしょう。