開催日20130423
テーマコロラド大学の看護教育の現状~看護師がHAPPYなら患者もHAPPY~
講師本学助手 宇都宮真由子、熊倉佳奈、苑田裕樹

コロラド大学の看護教育の現状~看護師がHAPPYなら患者もHAPPY~

 

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福岡と沖縄両県の8看護系大学は「大学間連携共同推進事業」に取り組んでいます。平成24年度には「折れにくい学生、(新人)看護師を育成するためにはどのような取り組みがされているのか」をテーマにして海外の看護系大学の事例を視察する事業が行われました。本学からは、看護系助手の宇都宮真由子、苑田裕樹、熊倉佳奈の3名がその活動に参加する機会を与えられました。

訪問した大学は、アメリ合衆国のコロラド大学と、その大学病院で、視察は2月26日から3月3日に実施されました。その報告を第2回ランチョンミーティング(4月23日開催)の場で、行いました。

報告内容は、
1.訪問したコロラド州の紹介(熊倉)
2.コロラド大学病院の看護教育について(宇都宮)
3.コロラド大学の看護教育について-シミュレーション教育の側面から-(苑田)
の3つです。

日本の看護職者にかかわる問題のひとつである看護師の離職原因として「医療事故への不安」「キャリアアップの困難さ」「リアリティショック」が挙げられています。これは、アメリカ合衆国にも当てはまるようです。そのため、コロラド大学病院では、数年前から体系的な対策が施されています。その対策は、特に医療事故とキャリアアップの領域で顕著でした。そこでそれらについて、今回のランチョンミーティングで次のように紹介しました。

①コロラド大学看護師の学士号保有率は85%である。看護師の教育水準が向上することにより、エビデンスレベルの高い医療を提供することができると考えられている。そして結果として医療事故への不安が減少することにつながっている。
②院内ラダー制度により努力や成果に対して評価、賞賛される体系が構築されている。それは、例えば、給料に反映されており、看護職者の労働意欲向上にもつながり、自己実現への満足度とも関連している。
③臨床現場では、博士号を持つナースサイエンティスト(研究指導者)から、研究についてのアドバイスを受けることができる。そのために、勤務を継続しながら学術的な資格を得ることができ、そのことが看護職者のキャリアアップにつがっている。

これらの施策は、看護師がやりがいを持ちながら仕事を継続できるように設計されています。そして、キャリアアップ制度などの支援体制を体系化させているので、看護職者は実践と研究を連動させることができます。その成果が医療の質の向上につながり、さらには看護職者の離職率低下に反映されているようです。

今回のサブテーマである「看護師がHAPPYなら患者もHAPPY」という文言にも、そのような意味が含まれているようです。
ランチョンミーティングでは、その点を強調しながら、日本の現状と比較したことで会場の聴衆の皆さんには、看護職者をめぐる職場環境の参考として考えてもらえる機会となったのではないでしょうか。

次に、シミュレーション教育を紹介しました。これは、アメリカ合衆国でも看護実践力の低下に伴うリアリティショック対策として発展してきたものです。看護学生へのシミュレーション教育は、「コミュニケーション能力」、「チームダイナミクス」、「医療安全」における看護実践力の育成を主な目的としています。そしてこの教育は、カリキュラムの中で、実習前・実習中・実習後に実施することが位置づけられており、段階的に目標をあげながらより臨床実践に近いシナリオコンテンツを活用した教育となっていました。

医師やナース・プラクティショナー(NP)、助産師などの専門家を育成するシミュレーション教育では手術室や分娩室、救急室といった病院施設と同じ構造が再現され、同じ物品などが準備されて配置されています。このように、実際と同じ設備や環境が整えられており、高機能シミュレーターが用意されています。さらに、俳優や教育を受けた模擬患者を、シミュレーション患者(SP)として活用し、臨床により近い状況での教育が展開されていました。

日本においては、実習時間の減少などによってますます看護実践力は低下していく傾向にあります。そのため、近年急速にシミュレーション教育の必要性が叫ばれています。本学でもシミュレーションラボを開設し、3体の高機能シミュレーターを設置しています。学生の皆さんには、それらをぜひ活用してもらいたいです。そこで訓練することが、リアリティショックの経験を和らげるための1つの方法として有用であると思われるからです。

しかしながら、日本全体で考えると、実際には依然として課題も多くあります。シミュレーション教育の効果については、明らかにできていない事柄も多く、日本では科目としての位置づけが困難だとされています。また、装置が高額であるため、教育機器として設置するには予算的困難が伴っています。さらには、専門的な教育者の育成がまだできていないという現状もあります。発表者を担当した苑田は、これらのことを含め教育側としての取り組みが必要であることも自覚しながら報告を進めました。

発表後の質疑応答では、多くの質問が出されました。例えば、「アメリカ全体の離職率は低いのか」「日本の看護師は業務量が多いと言われるがアメリカの看護師はどうなのか」というアメリカの看護の実態に関する質問を受けました。

それらの質問に対して、アメリカ合衆国では病院間の移動も離職として集計されていることもあり、数字としては、アメリカ合衆国全体の離職率のほうが日本より高い(20%台)ことを示しました。また、日本の看護体制は7:1(多くの場合)であるのに対して、アメリカ合衆国では5:1(もしくは4:1)です。そのため日本の臨床現場と比べ、アメリカ合衆国では落ち着いて業務している印象を受けたということを挙げました。

このように活発な意見交換を通して、発表者たちが今回の視察で見聞し、日本の看護界やその教育と比較しながら示し得たことで、ランチョンミーティング参加者の皆さんと新しい知識を共有することができたと考えています。

最後に、コロラド大学病院では、現状をより良くしていくための体系構築を求め、エビデンスを明らかにし、その後速やかに制度や体系を調整整備し、問題解決、さらにそこからまた新たなことを見出そうとしていることも伝えました。それは、看護の先を常に見据え、新しい視点で物事を考えようとする姿勢です。そのようなコロラド大学の看護教育の素晴らしさについて身を以て実感したことを伝えられたと感じています。

そして夢を持ち、「HAPPYなりたい」という気持ちが人間を一歩前へ前進させ、成長させてくれ、それは患者さんのHAPPYにつながるという、コロラド大学病院のテーマを感じてもらえたら、発表者一同は幸いだと思っています。

わたしたちは、コロラド大学の先生方に負けないように、情熱と誇りを持って看護教育に携わり続ける気持ちを新たにしました。日本の看護がもっともっとレベルアップしていけるように、「看護師も患者さんもみんなHAPPY」なれるよう、皆さんと一緒にがんばろうと考えています。

ランチョンミーティングに参加して下さった皆様に感謝します。ありがとうございました。

最後に、視察出張の機会を与えてくれた「大学間連携共同推進事業」関係者の皆さん、本学の教職員にも感謝します。