学長室便り No.1 対話を通して自ら学ぶ

新学期を迎え、皆さん新たな気持ちで学生生活のスタートを切ったと思います。新入生の皆さんはとりわけ未知の世界へのワクワク感で一杯でしょう。先輩の方々は、これまでの経験をもとにこれからチャレンジする課題への現実味のあるドキドキ感を抱いているでしょう。

新たな年度を迎えましたが、私たちの周りで起こっている出来事は解決をみないままです。新型コロナウイルス感染症は終息をみないまま5類に移行し、ますます個別の感染管理への努力が必要となっています。ロシアによるウクライナへの侵攻は泥沼化し、犠牲者が後を絶ちません。トルコの大地震では、隣国シリアを含め5万人以上の死者が出ており、1000万人以上が住まいを失うなどの被害を受けています。このような世界的課題の解決は、他人ごとではなく、「自分ごと」として捉え、世界レベルでの未来を考えることなしには得られないと思います。私たちが専門とする保健・医療にかかわる課題は、世界的危機を孕みながら変動し、複雑化しています。「何がその人にとって最善の医療なのか」「その人の幸せにどのように貢献できるのか」が現場では問われる日々です。

世界的課題であれ、日々関わる人々の健康課題であれ、難しい判断を伴う課題に、私たちは、社会人として、また、専門職として対峙しなければなりません。未来社会を支えるには、不確実で複雑な課題を紐解き、そこから希望へ向けて歩みを方向付け、踏み出さなければなりません。そのために、皆さんには、ぜひ、「対話を通して自ら学ぶ」ことを大切にしていただきたいと思います。つまり、現実から目をそらすことなくよくみつめること。出来事や現象の背後にある原因や理由、意味や価値を自分の目を通してよく考えること。そして、自分の考えや意見を他者に分かってもらえるように伝え・交わしていくことです。これらのことは、そう容易くは身に付くものではありません。人は、他人の目や評価に常に曝されており、良い評価を得ること、批判を受けないようにする思考や行動を知らず知らずのうちに身に付けているからです。これらを払拭するために、自分自身の見方や考え方を大切に、自分でよくかみ砕いて自分の言葉で伝える努力をすること、他者の見方や考え方に耳を傾け、自分自身の見方や考え方と同意する点や相違点について考えてみること、それらについて多面的に吟味検討し、尊重して相互の対立が乗り越えられるよう、互いの努力により新しい視点を見出すことが必要となります。

「対話を通して自ら学ぶ」という態度をしっかりと大学生活の中で身に付けることが、未来を拓く皆さんにとって掛け替えのない力となると信じています。学問や研究は、現実を考えぬくこととの対話のうえに営まれます。したがって専門職をめざしている皆さんには、「対話を通して自ら学ぶ」という態度は生涯必要とされるものです。

私も、皆さんと同様に新しい出会いやチャレンジを心密かに楽しみにしつつ、「対話を通して自ら学ぶ」日々を始めたいと思います。