学長室便り No.5 インテグリティ(Integrity)

今回は、卒業生の皆さんにむけたメッセージです。

皆さんは、卒業と同時に、「学生さん!」という親しみを込めた言葉で呼ばれることはありません。これからは、「〇〇さん!」として現場の第一線に立つのです。「学生さんだから」という防波堤はなくなります。仕事への責任、自分で作る目標、自律した生活設計と営みなど、社会人としての責務を担うことになります。仕事の現場では、言い訳ができません。ことに命の現場に赴く皆さんには、そのことが大きくのしかかってきます。「時間がないから」「まだ教えてもらってないから」「他の人がやってくれると思っていた」という言い訳は、あなたを専門職の一人として信頼している人の前では通用しなくなるのです。誰もが、直面するリアリティショックの一つとなります。リアリティショックは、「自分は役に立たない」「自分は看護職に向いてないのでは」といった動揺や自尊心の低下をもたらすことがあります。専門職ならば誰しもが体験する壁です。この壁を乗り越えるために、インテグリティ(Integrity)が必要となります。

インテグリティは、一般に、誠実、真摯、高潔を意味します。苦難や絶望に陥り、揺らいでいるときに、一貫性のある統合した自分を保つ力です。社会の一員として仕事をすることで、自分の至らなさや欠点を突き付けられるかもしれませんが、それだけに目を向けるのではなく、いま起きている新たな現実を直視すると同時に、自分が大切にしていることに気づき、何を改めれば適応できるのかを見定めることができる柔らかい強さを備える必要があります。きっと、皆さんが大切にしている価値の一つには、本学で学んだ赤十字の人道理念が培われています。

インテグリティの大切さを知っておくことで、言い訳に終始したり、他人の目を不必要に気にかけたりすることがなくなり、きっと自分自身でより良い判断を導くことができるでしょう。そのことが、責任のある行動へとつながります。自分の強みに焦点を合わせ、誰が正しいかに関心を持つよりも、何が正しいかに関心をもつ、素敵な大人になってください!

2023年3月
学長 小松浩子