学長室便り No.4 複雑で不確実な世界に生きる

色々な意味で、現代社会はVUCA(ブーカ)時代と言われている。VUCAはVolatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の造語で、社会において、未来の予測が難しくなる状況のことを意味します。気候変動、食料危機、経済危機、世界の安全保障、世界的貧困、大規模感染症パンデミックなどなど、これまでの変化の軌跡を覆す変動が生じ、未来への予測が難しい事態に見舞われています。私たちの身の回りをみても、実感することです。大学はもとより、実習や就職でお世話になる施設や組織は、大きな変革を求められています。皆さんの学生生活は正課外活動も含め、これまでの先輩方の事例や対策を活かすことが難しい状況にあると思います。時に、漠然とした不安や寂寥感を感じることがあるかもしれません。

今、VUCA時代を生き抜くために、「心理的安全性」を確保した組織の在り方が着目されています。不安や脅威に見舞われると、人は防衛機制を働かせるため、どうしても消極的な行動や心持になりがちです。複雑で不安定な状況では、それを打破する勇気や決断力、解決力が十分に発揮できなくなるのです。このような状況下では、一人の強いリーダーがいるだけでは、組織は良い方へと変化を遂げることは難しいといわれています。心理的安全性*とは概して「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」をいいます。つまり、誰もが、恥ずかしい思いや非難をされるのではないかという不安をかかえることなく、懸念やわからないこと、間違えを話すことができる、そして、自分のアイデアを気兼ねなく出せ、情報を共有し、ミスを報告しあえる風土がある、ことが重要となります。複雑かつ絶えず変化する環境で活動する組織において、心理的安全性は価値創造の源として欠かせない要素となります。

卒業や新学年を迎えようとしている皆さんが、希望や創造性をもち、VUCA時代を果敢に生きていけるよう、「心理的安全性」を大切にした学び舎を創り続けたいと思います。

*エイミー・C・エドモンドソン著, 野津智子訳:恐れのない組織 -「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす-, 英治出版

2023年1月
学長 小松浩子