学長室便り No.3 ウェルビーイング

   皆さんは看護学生なので「ウェルビーイング」という言葉は知っていると思います。ここ最近、私は、自分を含め世界の人々のウェルビーイングの大切さを改めて実感しています。自身の体験からすると、それは老いとともに衰える心身の不調とどう付き合っていくかという問題です。老人という年代に突入してから、寿命から引き算した年数の中で生きている自分がいます。海外旅行はあと何回できるか、研究発表はいくつできるのか、など限りある時間の中で自分の人生を見通しています。その一方で、何気ない日々の中で幸せを感じている自分に驚かされています。最近では、天気雨の後の丘にかかる虹、娘の手料理など、自然や人との営みの中で安らぎや癒しに小さな幸せを感じている自分がいます。皆さんも、沢山の課題や悩みを抱えていますが、きっと小さな幸せを日々感じることができ、「自分らしく生き生きとしている」というウェルビーイングを保っていると思います。

   近年、このウェルビーイングの重要性に着目した医療や政策が広く展開されるようになりました。その一つは高齢者医療・ヘルスケアです。先端医療や科学技術の発展により寿命の延伸を牽引するだけでなく、社会や環境の資源を賢く活用することによってより良い生活を送るための方策やシステムの開発が課題となっています。高齢者個々人のみならずコミュニティや社会全体でウェルビーイングに着目し、「自分らしく生き生きとしている」暮らしやまちづくりをめざす活動や政策が展開されています。ことに、高齢者は老いや病により身体的なウェルビーイングの低下が避けられないので、精神的なウェルビーイングの促進により、生き生きとしたときを持続することが重要となります。精神的なウェルビーイングは、機能的(健康的で自立的であること)、社会的(ソーシャルネットワーク、相互作用、関与、およびつながり)、および個人的(個人的な発達、活動的であること、意識的、および個人的な見通し)、環境的(時空間、自然や社会的環境など)な次元があるので、それらの次元を広げていけるよう賢く資源を活用するためのシステム作りや政策・制度の発展が求められています。

   単身赴任の私は、宗像の自然を満喫する中で、環境的なウェルビーイングの次元を広げることで、減退しつつある機能的、個人的なウェルビーイングを活性化しているように思えます。実習や課題に追われている皆さん、あなたのウェルビーイングはいかがですか?後ろ向きの自分がいたならば、周りの資源を賢く活用し、ウェルビーイングの翼を広げてみましょう!

2022年11月
学長 小松浩子