2020年度 学長室便りNo.3 「ひとりを看る目、その目を世界へ」

「ひとりを看る目、その目を世界へ」

ここ福岡に、4月7日、新型コロナウィルス感染症対策に対する「緊急事態宣言」が発出されてから一週間が経過しました。大学では、休校ならびにキャンパスへの立ち入り禁止措置、オンラインによる学習環境の整備、健康管理・相談などの対策を講じ、学生、教職員の皆さんの安全を守る努力を続けています。

残念なことに、この事態は収束には向かっておらず、感染者数は増加の一途を辿っています。新型コロナウィルス感染症との戦いは時計との競争です。世界では、24時間に感染者が倍増している都市もあり、誰もが感染の機会をもっているといっても過言ではありません。
今一度、皆さんには「Stay home!」という大切なメッセージをお伝えします。本来ならば、皆さんは、心地よい春風のもと、このキャンパスで語らい、学ぶことができました。現実は、とても残念な日々が続いています。その一方で、皆さんは、今までとは違う時の流れや物の見え方を体験していませんか?大切な人のことを思うこと、かけがえのない言葉に励まされること、そして自分だけなく、世界中で苦しんでいる人々を思うこと。私たちはこれまで体験したことがない事態の中で、さまざま制約や制限を強いられていますが、考えること、思うこと、伝えること、判断や工夫して行動することは無限に開かれています。深く考え、思い、意味ある行いをぜひ広げてください。

感染症予防と同時にさらに大きな社会的課題にも直面しています。最も弱い立場にある人たちの状況を知り、私たちに今何ができるのかについて考えていただきたい。世界が危機に陥っている中で、もっともそのひずみを受け、苦しんでいる人々の立場にたち、声をあげられないで水面下に沈んでいるニーズ(アンメットニーズ)に着目してください。家族や地域の中で、迷惑をかけてはならないとご自身の辛さや症状を我慢している高齢者のかたが周りにおられませんか?感染の危険性を心配しているのに断り切れなくて無理にアルバイトに駆り出されている友人はいませんか? 命について学んでいるあなたが勇気をもって「あなたのことを心配しています。大丈夫ですか?」という言葉をかけてください。心配なことがあれば、大学へとつなげてください。

あなたたちがめざしている看護職の方々が感染対策の最前線で日夜命と尊厳をまもるための看護に専心されていることにも目を向けていただきたい。最もリスクのある任務を果敢にとげている看護職に対して、残念なことに、社会からさまざま偏見や中傷を受けている事実も報告されています。最前線で戦っている看護職、医療従事者に対し、最大の敬意と感謝を込めてその働きに注目していただきたい。いったい何が起こり、どのような医療や看護が行われているかについて関心を持ってください。インターネットやマスメディアから、多くの情報や知識が得られます。私が会長をしている日本看護系学会協議会のHPを見ていただくと、看護学の専門分野が発信している感染対策や声明などを知ることができます。その他、海外の動向にも目を向けてください。世界の動向は、WHOのHPから的確な情報を得てください。社会的なつながりはSNSを通じて世界中に広がっています。SNSについては、その質を吟味してください。

この世界的脅威にさらされているのは私一人ではなく、世界中の人々が同じ立場にあります。この脅威は一人では乗り越えられません。赤十字の人道の理念のもと、「ひとりを看る目、その目を世界へ」を忘れることなく、未来への希望を信じて日々を大切に過ごしてまいりましょう。

2020年4月15日
学長 小松浩子