2019年度 学長室便りNo.4 令和元年度 卒業式・学位授与式 式辞

 
 ただいま卒業証書と学位記を受け取られた看護学部卒業生、大学院修士課程および博士課程修了生の皆様に、改めてお祝いを申し上げます。おめでとうございます。保護者の皆様方には、学生たちの成長を見守り支えていただきましたことに対しまして、御礼を申し上げますとともに、無事に学業を終えられましたこと、心からお祝いを申し上げます。
今年は春の訪れを喜ぶ余裕もなく、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑止する措置が求められ、そのため皆様の輝かしい新たな人生の門出を、このように限られた人数で、時間も短縮して行わねばならないことをたいへん残念に思いますが、特別な措置としてご理解いただきたいと思います。

 卒業生の皆様の4年間を振り返りますと、入学式1週後の熊本地震に始まり、九州北部豪雨、西日本豪雨そして昨年の東日本台風と、毎年大きな災害が発生しました。数多くの尊い命が失われ、日常の暮らしを喪失した人々は数万人に上りました。卒業生の中には、被災地でボランティア活動をされた人も大勢いらっしゃいます。特に、熊本地震の際には、上級生たちが「赤十字の看護学生として何ができるか」と、昼休みに集会を持ち、その翌日から精力的に募金活動を開始したことは、当時本学に着任したばかりの私自身にとって、赤十字の看護学教育の価値を強く実感し、感動した出来事でした。皆さんがこのような日本赤十字九州国際看護大学を卒業されるにあたって、3つのことをお願いしたいと思います。

 1つは、赤十字の「人道」の理念を基盤とした教育を受けたことを誇りに思い、生き方、考え方の中核にその理念を据えて、これからの人生を生きてほしいということです。現在の世界は、地球温暖化に伴う巨大災害だけでなく、紛争、難民問題、貧困と飢餓、虐待など、多様で重層的な人道的課題が山積しています。赤十字の看護学教育を受けた皆様だからこそ、どのようなときであっても苦難に直面している人に対する深い関心を寄せ、命と尊厳を守るために自分に何ができるかを問い続けることができるはずです。
 2つ目は、本学のキャッチフレーズ「ひとりを看る目、その目を世界へ」をも、しっかりと心に焼き付けていただきたい。人間は誰も厳しい環境に置かれると、視野が狭くなりがちです。卒業生の多くは4月から看護師として働き始めます。厳しい医療の現場に圧倒され、配属部署と家だけの狭い世界に陥りかねませんが、そのようなときであっても、時には世界を見まわし、看護を必要とする人々へのまなざしを持ち続けてほしいと願いますし、さらに、世界の保健・看護事情と日本のそれとを相対化できるようになって頂ければなお嬉しく思います。
 3つ目、本学の卒業は専門職業人としての小さな一歩に過ぎないことです。専門職業人として大切なことは学び続けることです。学ぶことを止めてはいけません。卒業して数年後でも十年後でもよいのですが、キャリアアップのため、あるいは現場の疑問解決のために、大学院は皆様が門を叩くのを待っています。人生100年時代を生き抜くためにも、学ぶことと社会での活動とを循環させることは極めて意義の深いことです。人はいつでも学び、成長できますし、結婚して子供が生まれても大学院で学ぶ機会は誰にでも開かれていることを忘れないでください。

 大学院修了生の皆様へ一言。修士課程在学中は、科学的な探求のプロセスを踏むことの難しさも楽しさも喜びも味わった日々だったと思います。中には出口が見えないトンネルで苦しんだ人もいたようですが、最後は皆、それらを乗り越えられました。その経験は皆様を一段と成長させたように思われます。皆様には、修士の学位を有する看護のリーダーとして、超高齢社会で求められる看護の在り方を変革する人になることを強く期待します。博士課程修了者には、今後独創性の高い研究を通して看護の理論を豊かなものとし、今後の看護学教育・研究を牽引していただきたく思います
 
 今年2020年は、折しもフローレンス・ナイチンゲールの生誕200年に当たります。これを記念して、WHOや国際看護師協会、各国の保健省、看護職能団体などでNursing Nowキャンペーンが取り組まれています。そのスローガンは、「看護の力で、健康な社会を」というものです。もちろん日本の厚生労働省、日本看護協会、日本赤十字社も取り組んでいます。
ナイチンゲールが活躍した時代には、細菌学は全く未発達でした。クリミヤの地で彼女が傷病兵に行ったことは、人の持つ自然治癒力が最も良く働くようにすることでした。それは、「看護覚え書」にある新鮮な空気、暖かな陽光、清潔の保持、栄養のある食べ物などを適切に整えることでした。ナイチンゲールはこのような看護によって、傷病兵の死亡率を47%から2%へ激減させたのです。今、人類は未知のウイルスと戦っているわけですが、やがて現代科学によってこの難局を切り抜けることができるまでの間、看護の力が人々の命を救い、健康な社会づくりに貢献できることを実証していく機会としていきたいものです。

 卒業生、修了生の皆様、これから皆様が活躍する時代は、AIの活用など科学技術の目覚ましい発展もあって、予測不可能な時代と言われています。そうした中で、ナイチンゲールのようにとまでは申しませんが、看護についてもイノベーションを起こす人が皆様の中から生まれてくることを大いに期待しています。皆様は日本の、そして世界の看護の未来を作り出す人たちなのです。どうか自由に、大きく成長し、自分らしい大きな花を咲かせてください。

 最後になりますが、卒業生、修了生そしてご出席の皆様方のご健勝とご多幸、ご発展を祈念いたしますとともに、本日はご臨席を賜れなかった保護者の方々および多くの施設の指導者や管理者の皆様、宗像での生活を支えていただいた地域の皆様に深く感謝を申し上げまして、式辞といたします。

令和2年3月6日                

       
日本赤十字九州国際看護大学
学長 田村やよひ