2019年度 学長室便りNo.2 第47回フローレンス・ナイチンゲール記章受賞式に参列して

私たちは、
自分が誉められるためにではなく、
私たちが選んだこの仕事に名誉をもたらし、
それを前進させるために、
心を打ち込んで
事を成し遂げていこうではありませんか。
- フローレンス・ナイチンゲール

   学生の皆さんもすでにご存じと思いますが、今年5月12日、スイスの赤十字国際委員会(ICRC)から第47回のフローレンス・ナイチンゲール記章受賞者が発表されました。今年は日本から秋山正子さんと竹下(浦田)喜久子さんがその栄誉ある受賞者となりました。竹下喜久子さんは、本学の第3代学長として、2013年4月から2016年3月までの間、この宗像で過ごされた方です。4年生の中には、2015年のオープンキャンパスでのご挨拶が記憶に残っている人もいることでしょう。
   8月7日、東京プリンスホテルで受賞式がありました。日本赤十字社名誉総裁の皇后陛下、名誉副総裁の秋篠宮妃殿下、常陸宮妃殿下、寛仁親王妃殿下、高円宮妃殿下をお迎えして、たいへん華やかな式典でした。式典では最初に会場の照明が消され、ナイチンゲールのクリミヤでの活躍を伝えるナレーションが流れる中、赤十字看護専門学校の学生たちによるキャンドル・サービスが行われました。参加者全員の心が一気に、19世紀半ばのスクタリの兵舎に引き込まれるような印象深い幕開けでした。そして、大塚社長のご挨拶と受賞者のご紹介の後、皇后さまから受賞者に対して賞記とメダルの授与がなされ、式典は最高潮に達しました。そして、赤十字国際委員会総裁、厚生労働大臣、日本看護協会長からのお祝辞があり、厳粛な中にも心の温まる素晴らしい式典となりました。本学からは中村学部長、本田研究科長、学生3人と私の6人が参加しました。受賞式の印象などを聞く機会もあろうかと思いますので、ここでは竹下喜久子前学長の業績などをご紹介いたしましょう。
 
   竹下前学長は熊本県出身で、福岡赤十字高等看護専門学院の卒業生です。専門学校と本学の同窓会「遙碧会」のメンバーでもあります。現在は日本赤十字社看護師同方会の理事長として、全国の赤十字組織で働き、学んでいる看護師や学生たちの要としてご活躍です。本学着任以前は、日本赤十字社事業局の看護部長として2003年から10年間、全国の赤十字病院看護部を統括してこられました。熊本赤十字病院看護部長として現場の指揮にも携わった経験もおありです。

   ナイチンゲール記章の受賞理由は、次のような点でした。
   第1は、2011年の東日本大震災における救援・救護活動に関することです。甚大な被害を受けた宮城県の石巻赤十字病院の看護スタッフ支援と病院機能を維持するため、日本赤十字本社の看護部長として、被災地で適切な判断と行動ができる高い実践能力を有するキャリア・ラダー3以上の看護師を全国の赤十字病院から継続的に派遣する仕組みをつくり、6か月間にわたって動かしたことでした。また、明治時代から続く日本赤十字社の災害救護活動のなかでは初めて、避難所で暮らす高齢者や乳幼児、妊産婦、慢性疾患を有する人など、いわゆる災害弱者へ看護を提供する「看護ケア班」を組織し、長期的に被災者の心身の健康維持に資する活動を推進され、力強いリーダーシップを発揮されたことが高く評価されました。
   2つ目は、2004年にインドネシアのスマトラ島沖で発生した巨大地震と大津波により壊滅的な被害を受けたインドネシア国アチェ州の看護学校に対して行われた災害看護教育の支援活動です。現地には「災害看護」という概念がない中で、インドネシア語の教科書を作り、教員に対して教授法を指導するなど、将来、自国で災害看護活動ができることを目指して支援が展開されました。この教科書作りや教授法の支援には、数年にわたって本学から多くの教員がアチェ州に出向き、大いに貢献したと伺っています。
   3つ目は、赤十字病院の看護の質を向上させる取り組みを推進されたことです。具体的には、2007年に看護実践能力開発を支援するための「赤十字医療施設のキャリア開発ラダー」を整備し、全国92病院に導入・定着させたことです。看護職のキャリア・ラダーは米国で開発され、日本でもいくつかの大病院で導入されてはいたものの、日本赤十字社のような全国組織におけるすべての医療施設での導入例はなく、画期的なものでした。しかもこのキャリア開発ラダーは、単に看護実践能力だけでなく、看護管理面、専門性の面、そして赤十字が行う救護活動面での指標をも含む意欲的で総合的なものでした。この「赤十字医療施設のキャリア開発ラダー」は今春改訂されており、看護職者の成長を助け、質の高い看護を人々に届けるための重要なツールになっています。

   本学では、10月12日(土)午後2時半から、博多の日航ホテルにおいて竹下前学長の講演会「私の歩んだ道程(みち)」を開催します。学生の皆さん、看護職の方々、看護の道を目指す高校生、市民の方々など大勢の参加をお待ちしています。竹下前学長の講演を聞くことにより、冒頭に掲げたフローレンス・ナイチンゲールの言葉は、実体を伴って多くの皆様の胸に届けられることでしょう。

F・ナイチンゲール記章授与式