平成30年度 学長室便りNo.4 平成三十年度 卒業式・学位授与式 式辞

ただいま卒業証書、学位記を受け取られた看護学部卒業生、大学院看護学研究科修士課程および博士課程修了生の皆さんに心からのお祝いを申し上げます。誠におめでとうございます。入学以来、真摯に学業に励み、研鑽され、めでたく本日を迎えられた今、大きな充実感、達成感に浸っていることと思います。

また、これまで皆さんの成長を温かく見守り、学習環境を整え、支えてくださいました保護者の皆様方も大きなお慶びのこととご推察いたします。誠におめでとうございます。

本日はご来賓といたしまして、福岡県副知事 大曲昭恵様、福岡赤十字病院院長 寺坂禮治様、日本赤十字社看護師同方会福岡県支部長 松永由紀子様、本学同窓会遥碧会会長 池田尚大様をはじめ、本学の教育・運営に多大なご協力をいただいている皆様のご臨席を賜っております。高いところからではございますが、教職員を代表いたしまして、厚く御礼を申し上げます。

学部卒業生の皆さんは、4月から新人看護師としての職業人生が始まります。超高齢社会がますます進む中で、保健医療、福祉の領域は大きな変革の只中にあります。就職の内定をいただいているどの施設でも新しい医療技術の導入などがなされ、看護ケアの内容も常に見直しが求められる状況にあると思われます。そうした大きな変化の波の中に皆さんは飛び込むわけです。

でも、恐れるには及びません。その理由を最近行った本学卒業生の調査からご紹介します。卒後3年目の人たちが本学で学んで身についた力として、教員や実習指導者から“なぜ”“どうして”と問われることを通じて、自ら考える機会が増え勉強する癖がついた、臨床にいながらも常に疑問を持って仕事している、全体を把握し先を見通す力が身につき役立っている、などの言葉が聞かれました。本学のディプロマ・ポリシーに掲げた「自己教育力」や「問題解決力」、「看護の専門性を探求する力」が見事に花開いているのです。さらに、赤十字の卒業生であることを他者から評価してもらい、看護師としての誇りや自信になっているという言葉もきかれました。教育の基盤においている赤十字の「人道」の精神は、ディプロマ・ポリシー「人間の尊厳と権利を擁護する力」に反映されていますが、日々の看護実践の中で卒業生たちはそれを具現化しているのです。

卒業生の皆さん、日本赤十字九州国際看護大学を母校に持って学んだことに自信と誇りをもって、元気に看護専門職としてのスタートを切ってください。

大学院看護学研究科についてですが、まず今年度初めて、博士の学位を授与することができましたことを、ここにご出席の皆さまとともに喜びあいたいと思います。博士課程は赤十字五大学との共同課程として3年前に設置されました。一昨日、北海道赤十字看護大学と本学の二名の博士論文発表会があり、いずれも独創性が高く、社会的意義の大きな素晴らしい研究で、深い感銘を受けたところです。

修士課程を修了する皆さんは、2年間の教育課程の中で助産師として、研究者として、また高い専門性を備えた看護実践者としての資質を身に付けることができました。今年度の修了生の中には、クリティカルケア専門看護師と在宅ケア専門看護師の認定試験受験資格を得た方が2名おります。資格取得後の活躍を大いに期待いたします。

また、全員が取り組んだ特別研究、課題研究は、学術的にも社会的にも意義深い成果が多く、将来の看護の発展に寄与できそうな種がいくつもあるものでした。今後は、修士の学位を有した看護師、助産師として、まずは看護実践に力を尽くされ、さらに臨床研究やスタッフ教育においても力を発揮してくださることを期待しています。

さて、これから皆さんが担っていく社会はどのような特徴があるのでしょうか。超高齢社会、グローバル社会、IT社会など、いろいろに言われていますが、どのような社会であれ、人の手のぬくもりと笑顔のある看護という人間的行為の必要性はなくなりません。したがって、私たちは社会の変化、人々のニーズや価値観の変化に応じて、または先取りをしながら看護の在り方を変化させていくべきなのです。平成の時代も間もなく終わる今、この30年間に発展した日本の看護について述べておきたいと思います。

ひとつは、本学の客員教授でフローレンス・ナイチンゲール記章受賞者でもある村松静子氏が取り組んだ「在宅看護」「訪問看護」です。彼女は日本赤十字社医療センターの初代ICU看護師長時代、退院後の患者の家庭での療養生活に専門的な看護が必要だと気づき、病院を辞めて有限会社を作り、在宅看護を始めたのです。その取り組みがモデルとなって平成4年、老人保健法の改正により訪問看護制度ができ、全国に訪問看護ステーションが作られるようになりました。皆さんが実習させていただいた訪問看護ステーションは、日赤の看護師の在宅看護への挑戦から始まったのです。

もうひとつは災害看護です。毎年のように大地震や大洪水など、世界中で災害が頻発しています。日本赤十字社では明治時代から災害地に看護師が派遣され被災者への支援活動をしてきましたが、「災害救護」と呼んでいます。平成7年まで日本には「災害看護」という言葉はありませんでした。阪神淡路大震災を契機に、当時の兵庫県立看護大学が中心になって「災害看護」という概念を用いて被災者支援を始め、災害看護学の構築に向けた多くの研究に手を付けたのでした。今日、災害看護学はどの教育機関でも教育されるようになりましたし、日赤看護大学を含む全国の国公私立5大学共同で災害看護学のグローバルリーダーを育成する五年一貫の大学院では今春、最初の博士修了生を世の中に送り出すと聞いています。

皆さんが活躍し、リーダーになる10年、20年後の社会、医療や看護、人々のニーズは、どのように変化しているのでしょうか。想像できないことも多いのですが、どうか皆さんはその時代における看護のニーズを的確にとらえ、「看護職者は今、何をすべきか」を常に問いかけながら、新しい看護の在り方を開発していってください。皆さんがどのような世界を創り上げるのか、私はたいへん楽しみにしております。

卒業生、修了生の皆さん、皆さんは日本赤十字九州国際看護大学の誇りです。未来への希望です。本学のキャッチフレーズ「一人を看る目、その目を世界へ」を胸に、この学び舎を飛び立ち、自由に大きく羽ばたき、豊かで幸せな人生を送ってくださるよう願っております。

最後に、本日ご臨席いただきました皆様方のご健勝とご発展を祈念いたしますとともに、多くのご指導を頂きました施設の指導者・管理者の皆様、学習や生活を支えてくださった地域の皆様に心からの感謝を申し上げまして、式辞といたします。

                                                                                         平成31年3月7日

日本赤十字九州国際看護大学
学長  田村 やよひ