平成30年度 学長室便りNo.3 日赤福岡県支部130周年記念大会に参加して

2019年が明けました。学生の皆さんは年末年始、どのように過ごされましたか。
一昨年は九州北部豪雨、昨年は西日本豪雨と強烈な台風、大阪と北海道での大地震など、このところ大きな災害が日本中のあちこちで起きています。今年こそ平穏で、安心・安全に暮らせるようにと願っていたところでしたが、お正月の3日には熊本県和水町で震度6弱の地震がありました。幸いにも人命にかかる被害はなく、安堵しました。この新しい年においても、常に緊張感をもって生活しなければなりませんね。

昨年11月21日、日本赤十字社福岡県支部創設130周年記念赤十字大会と福岡県日赤紺綬会第59回総会が福岡市で開かれ、私も参加してきました。参加者は約600人とたいへん大きな式典で、第1部は福岡県支部創設130周年記念赤十字大会、第2部が日赤紺綬会総会、そして記念講演というプログラムでした。第1部も第2部も、日赤福岡県支部長(小川洋福岡県知事)や紺綬会会長のご挨拶や来賓の祝辞に始まり、赤十字活動の功労者に対して有功章や感謝状が日本赤十字社の大塚義治副社長(日本赤十字学園の理事長でもあり、入学式に出席頂いています)や小川洋福岡県支部長(福岡県知事)から手渡されました。奉仕団功労の部では、「日本赤十字九州国際看護大学学生奉仕団」も表彰され、4年生の高良さんが代表して支部長感謝状を受け取りました。また、10数人の4年生が黒衣姿で式典の進行をサポートし、足元が心許ない方への介助をするなどの大切な役目を果たしており、私も誇らしい気持ちでした。

私は表彰された方々に拍手を送りながら、赤十字の活動は数多くの方々からの浄財と善意のボランティア活動によって支えられていることを実感し、強く感銘を受けておりました。それとともに、約20年前の本学の創設にあたっては、21世紀の看護を担う看護職の育成に大きな期待を込めて、看護の大先輩たちや多くの篤志家、企業から多額のご寄付があったことに思いを馳せ、その期待にお応えしなければならないと気持ちを新たにしました。

記念講演の演者は、本学の名誉学長であり現在は笹川記念保健協力財団会長の喜多悦子先生です。タイトルは「日本の近代化と赤十字―佐野常民が目指したもの、私たちが忘れていることー」でした。それは幕末から明治時代の日本の近代化の様相を背景として、佐野常民の言葉「真正の文明は道徳的行動の進歩と相伴わざるべからず」から「道徳的行動」を中軸においた非常に興味深い講演でした。

喜多先生は、佐野常民が派遣された第2回パリ万国博覧会(1867年)で、赤十字の展示の何になぜ感銘を受けたのか、ソルフェリノの戦いに遭遇したアンリ・デュナンはなぜ赤十字のような救護組織を思いついたのか、当時のヨーロッパはあちこちで戦争が起きているのに、なぜ彼だけが考えついたのか、などの疑問を提示し、それらを探っていく形で歴史や科学史を紐解き、F・ドゥヴァールのボノボの研究「道徳性の起源」にも触れて、道徳的行動の核心に迫る講演をなさったのでした。最後には、世界に蔓延している利己主義、排他主義、嫌がらせ、ハラスメントなどの反道徳的行動を挙げ、私たちが目指すものは道徳的行動を進歩させることだと話されました。その具体例として、本学のゲート棟前に銅像がある上田米蔵翁を挙げ、日本赤十字社福岡県支部や本学への貢献を讃えられました。このように、ご講演は喜多先生の豊かな教養を彷彿とさせるものであり、自ら問いを立て、知を尋ねることの面白さも追体験できるものでした。

本学図書館2階には、喜多先生が退職時に寄贈された喜多文庫があります。学生の皆さんは、そこに幅広い分野の数多くの書籍が並んでいるのを知っていると思います。時には、先生が学生たちのためにと残された本をぜひ手に取ってみてください。興味深い発見があるに違いありません。そして、アスティ前の上田翁の銅像の横にある喜多先生が書かれた碑文も読んでみてください。

学生の皆さん、今年も健康で、豊かな学生生活を送れるよう頑張ってくださいね! 私は一日一善、道徳的行動をとることを課題にしながら、皆さんの成長を楽しみにしています。