平成29年度 学長室便りNo.1 入学式 学長式辞

今年は春の訪れが遅く、構内の桜もようやく一昨日からほころび始めたところです。本日、晴れて入学式を迎えられた看護学部百二十三名、大学院修士課程十一名、博士課程二名、認定看護師教育課程三十名の皆さん、誠におめでとうございます。保護者、ご家族の皆様方にも、心からのお祝いを申し上げます。

本日はご来賓として、福岡県副知事大曲明恵様、宗像市長谷井博美様、福岡赤十字病院長寺坂禮治様をはじめ、実習でお世話になっている施設の皆様、日本赤十字九州ブロック各県支部の皆様、地域の関係者、学生支援の会、同窓会など本学の教育・運営を支えてくださっている多くの皆様のご臨席をいただいております。年度当初のたいへんお忙しい中を誠にありがとうございます。

日本赤十字九州国際看護大学は学校法人日本赤十字学園が有する六つの大学の一つとして、二十一世紀の始まりとともに開学し、今年は十七年目を迎えました。これまで一四〇〇人を超える卒業生を世に送り出してきました。すでに初期の卒業生は、各地の赤十字病院をはじめとする医療施設の中堅として、リーダーシップをとり、後輩の指導にも力を発揮しています。また、大学名に「国際」がついている通り、海外で活躍するという夢を実現して、開発途上国で保健・看護活動に携わっている卒業生も多くおります。

日本赤十字学園の設立母体である日本赤十字社には約百三十年の看護教育の歴史があり、明治時代以降、優秀な看護師を数多く輩出し、我が国の看護を牽引してきました。皆さんは、そのような歴史と伝統を誇る赤十字の看護教育を受けることを誇らしく思っていることと思います。

本学では、看護学部入学者受け入れの方針、つまりこのような人に入学してほしいという要件として四つを挙げております。一つ目は、人間の尊厳と人権を大切にできる人、二つ目は主体的、創造的に考え行動しようとする人、三つ目は看護の基盤となる広い教養を学び、専門的知識を身につけたい人、四つ目は赤十字の理念を理解し、国際的活動に関心を持っている人というものです。人間の尊厳、人権、主体性、創造性、看護、教養、赤十字の理念など、どの項目の中にも極めて抽象的で説明が難しい言葉が含まれています。皆さんは入学が許可されたわけですが、これからの四年間の学生生活を通して、これらを自分の言葉で説明できたり、行動で表したりすることができるように自らを鍛えていただきたいと思っております。

本学の教育目標には、「赤十字の人道の理念を実践できる看護人材を育成する」という一項があります。「赤十字の人道の理念を実践する」ということはどういうことでしょうか。極めて簡単に言えば、どのような状況下であれ、苦難に直面している人々の尊厳と命を守ることといえるでしょう。でもこれは、容易なことではありません。

私はこの三月、機会を得てジュネーブの国際赤十字博物館を訪れました。そこには、紛争で難民となり、故郷を命からがら追われ、行く先々を転々とする中で家族とも別れ別れになってしまった子ども、難民キャンプで誘拐され、少年兵にさせられ人を殺すことしか学んだことがないと言う青年など、今の日本では想像できない苦難の中におかれた人々の様子が映像などで展示されていました。また、行方不明になった六百万人にも及ぶ人のリストの実物にも目を奪われました。私たちには、このように尊厳を脅かされ、踏みにじられた一人ひとりの願いや生き方、体験などを、簡単に解ることはできませんが、想像力を豊かにして解ろうとする努力が求められています。

翻って、私たちの日常に目を向けると、状況は異なりますが支援が必要な人道的課題はたくさんあります。皆さんにとっては熊本地震被災者のことが、すぐに心に思い浮かぶのではないでしょうか。本学の学生たちも学生復興委員会を立ち上げ、募金活動、がれき撤去、避難所の清掃やレクリエーション活動、そして最近では仮設住宅のある地域での移動図書館の活動など、苦境におかれている方々の支援を続けています。「赤十字の看護学生としてできることは何か」を模索しながら活動する学生の取り組みや姿勢は、「赤十字の人道の理念を実践する」ことと重なり、本学の誇りでもあります。熊本への支援活動に限らず、本学では学生が主体的に取り組む活動が数多くあります。皆さんも先輩たちとともにそれらに参加することにより、学生生活を豊かで実りあるものにしていくことができるに違いありません。

学生の皆さんがこれからの学生生活を始めるにあたって、心にとどめておいてほしいことはたくさんありますが、ここでは私が最も大切だと考えていることを一つだけ言います。それは、セルフケア、自己管理ということです。自分の体、心を自分自身で整えること、そのためには栄養バランスの良い食事と適切な睡眠・休息をとること、活動面では勉強とサークル活動、アルバイト、スポーツや遊びなどのバランスを適切にとることです。これらはすべて看護の基本的な要素でもあるのですが、セルフケアをきちんとすることで、皆さんが個々に描いている大きな夢の実現に近づいていけるのです。

大学院については、とりわけ今年から開始した専門看護師CNSコースの皆さんがどのように育っていくのか、私はたいへん期待をしております。福岡県には七万人を超える看護職が働いていますが、クリティカルケア専門看護師は四人、在宅ケア専門看護師に至っては一人もおりません。我が国の医療政策は、皆さんもご存じのとおり、病院の機能分化と連携、そして地域包括ケア体制の構築に向かって進められています。これからの時代、高度急性期や急性期の医療を担う病院ではクリティカルケア専門看護師が、在宅医療の場面では在宅ケア専門看護師の活躍が大いに期待されています。本学教員が皆さんの教育に力を注ぐことはもちろんですが、一期生というのは、教員とともにそのコースのあり方を作り上げていく重要なパートナーでもありますので、学習者としてありたい姿を院生自身が言葉にしながら学びを深めていっていただきたいと願っております。

認定看護師教育課程入学者の皆さん、本学では救急看護認定看護師の教育課程を本年度で閉じることとしております。最後の入学者として思う存分に学びを深めてください。皆さんの対象になる救急患者は小児から高齢者まで、外傷から重要臓器の致死的病態までときわめて多様です。救急という時間的に切迫した、緊張感の高い現場の中で適切な判断をするには、つねに鋭い観察眼と最新のエビデンスに基づく知識が必要です。大学という施設で学ぶ強みを生かして、救急医療チームの一員として活躍できる基本的な能力をしっかりと身につけてくださることを期待しております。

最後に、本日入学された皆さんの学生生活が充実したものとなりますよう、私ども教職員一同は力を合わせて支えていく決意であることを申し上げますとともに、ご来賓の皆様方には従来にも増して本学の教育・運営へのご協力とご支援をお願いいたします。そして保護者に皆様には、学生の学びを温かく見守りくださいますようお願いをいたします。本日ご列席の皆様方のご健康とご多幸を祈念いたしまして、私の式辞と致します。

平成29年4月6日
日本赤十字九州国際看護大学
学長  田村 やよひ